綿雪

『ユキはやり残したことがある』
夏休みが終わります──
いつもの年よりもなんだか暑かったような、
そして、またいつもの年みたいに
長いようで短かった夏休み。
お兄ちゃんは、何が一番の思い出になった?
ユキは、あんまり体を悪くしないで
おうちでゆっくりできたことと──
それから、みんなで日が暮れてから
花火をしたこと。
ぴかぴか光ったり、音がしてこわい花火は
人気なのは知っているけど、それよりも
小さくて、なんだか儚い音を立てて輝く
線香花火が楽しかったりして
みんなの話を聞くと
好みはそれぞれで、面白かったりするの。
花火だけの
みんなそれぞれではなくて──
一緒に過ごした夏休みも
あんなこと、こんなこと
一番のお楽しみは全然違うらしい!
本当に、そんなに違うのかな?
お兄ちゃんくらい大きいと、またいろいろあるかもしれないけど
同じ家族で、女の子で
年もそんなに離れていないきょうだいなのに?
吹雪ちゃんは、時間があって
ふだんなかなか読めないような本も読めて楽しかったみたい。
ユキから見たら
どれも同じ難しい本に見えるのに──
夏休みだと、そんなに違うのでしょうか?
夕凪ちゃんはお庭に広げたビニールプールと
お水をまいた思い出だって。
絵日記でも大きく
きらきらまぶしく描くのにがんばっているのが
見ていてとてもよくわかる──
そんなに──
そんなにも!?
夕凪ちゃんにとっては、特別なことだったそうなの。
虹子ちゃんは、みんながいたから
新しいお歌を考えて歌ったのが楽しかったって。
それはよかった!
とってもお歌がじょうずな虹子ちゃんだもの。
いつも元気に大きな声で
夏休みだからって、そこまで変わってくるのだろうか?
うーん──
みんなにそれぞれの思い出を作って
ぜんぜん違う体験をさせる
夏休みの魔力。
ユキはまだその一端に
わずかに触れただけのような気がする──
魔力の正体を
大人になったら、いつか知ることができるの?
夏休みに私たちをときめくような何者かに変えてしまう不思議を
長い時間がある時に、自由研究でもして突き止められたなら。
それができたらなっていうのが──ひとつだけ心残りだったの。
もうすぐ、学校が始まります。
お勉強をして、本を読んで
友達ともお話をして──
きっと、終わった後も
あの特別な時間の研究は続く。
そしていつか、また夏休みを知る時が来たら
その時は、もっととんでもない特別を過ごすのだ。
なんだかそうなりそうな気がしている──