綿雪

『砂場のできごと』
トントン
グツグツ
──
もういいかな?
いい匂いがしてくる頃だと思うの。
少し寒さが
戻ってきてしまったから
みんなには温まってもらうように
今日はお鍋にしましょうね。
入れる具材は──
たいへん!
買い物を忘れて
冷蔵庫にはあんまりないんでした!
なんて。
ウフフ。
でも、心配いらないの。
子供たちのお気に入りの
ブロックなら
なんにでもなる。
そういう遊びだもの!
お鍋に近い色の
黄色のプラスチックのバケツに
ユキの入れる赤いブロックは
にんじん──
青空ちゃんが同じ赤色を入れたら
とうがらし。
マリーちゃんはマカロン
観月ちゃんは油揚げで、
吹雪ちゃんなら宇宙食のシリアルキューブにしたいのだそう。
これなら
いい味が出そうです──
ユキたちに優しいお兄ちゃんや
お姉ちゃんたちへ
元気になる温かいお料理を
本当に出せたらいいんだけど──
今はまだごっこ遊び。
いつももらっているものに
感謝の気持ちを込めて
お礼を返すことは──
そう毎日できるわけではありません。
せめて──
また寒くなった日にも、風邪をひかないように
祈るばかり。
そして心配をかけないように
自分たちのうがい手洗いをしっかりするくらい。
あれ?
観月ちゃんはどこへ行ったのだろう──
見当たらないですね。
家に戻ったなら
ちゃんと手を洗ってくれたでしょうか?
それとも、もしかしたら
お兄ちゃんたちにあげるものを
見つけられそうなのかも──
観月ちゃんは踊りが上手。
練習して見せてあげたらみんなが喜ぶはずだもの。
それはとっても特別で
すごいことだな──
トントントン。
ユキはもう少し遊んで
寒くなる前に戻ります。
手を洗ったあと
お兄ちゃんたちと手をつないで、
そのときに体が冷えてしまっていたら
驚かせてしまうもの。
おうちで学べる
これも大事なことのひとつ──です。

星花

『エンゲージ』
今日は海晴お姉ちゃんと
お庭を歩きました。
もうすぐ色んな花が咲く前の季節。
寒い冬を耐えて
これから楽しいことがたくさんやって来る予感で
胸が膨らむ頃。
まだときどき吹く風は冷たいけれど
もう星花たちは厳しい時期を乗り越えてきたんだもの。
こんなのは平気です!
力のつくおいしいものを好き嫌いなく食べて
こうしてみんなと遊んで鍛えたら
なんとかなる──
そんな気がする暖かい春の始まり。
海晴お姉ちゃんも小さい頃から
この庭でよく遊んで
体を鍛えてきたって。
勢いよく駆け上がった坂道。
ボールを投げあうのにちょうどいい広場。
つかまらないように逃げた鬼ごっこで辿る道。
よく潜んだ隠れ場所は
悲しい時に一人になるときに逃げ込んだ場所。
今はもうお兄ちゃんがいるから必要ないけど──
星花が悲しい時には使ってもいいんだそうです。
昔から変わらないままのお庭で
育った妹たちもみんな
よく遊んでたくさんのことを覚えて
海晴お姉ちゃんみたいに大きくなれるはずだと
そう言っていました。
星花も今日はなんだか
ああ、そうなんだ──
きっとそうに間違いないんだろうなあと
思いました。
いつもなら少し
海晴お姉ちゃんみたいにきれいになれないと
心のどこかで思っているのに
今日だけは──
季節が移ろう途中の日には
特別な気持ちになれる時が
たまにあるかも──
珍しく思いにふける時間。
変わらない景色に
お兄ちゃんがやってきて
星花は少し大きくなっている。
来年も
そのまた来年も
この季節にはまたお庭を歩いて
暖かい日差しが気持ちよくて
うれしい気持ちを聞いてもらえたら、
そうなれば
とってもいいですよね。
ささやかで小さな
願いかもしれないけれど
冬を乗り越えた後のいい景色。
またみんなと歩けたら──
本当に、そうなるといいですね!

ヒカル

『暖かい日』
春のような陽気が続くので
みんなお気に入りのおもちゃや
遊び道具を持ち出して
汗をいっぱいかいてはしゃいでいる。
いいことだ。
でも、そうなるともちろん
さっと汗を流したくなる人が増えて
お風呂場は大混雑。
シャワーは順番待ち。
着替えを抱えたまま
べたべたの服で待つ家族たち──
いくら暖かくなっても
油断はいけない。
海晴姉によると
また寒い日が戻ってくる予報もあるそう──
こんな時は
どんどんお風呂に誘って
小さな妹もさっぱり綺麗にしてあげて──
そうしていると
恥ずかしがる子もいるから
そんな小さなこと
気にしなくてもいいのにって
勢いで引っ張ってきてしまう。
こういうときに
ちゃんと相手の気持ちを思いやる言葉があれば
本当はいいのに
どうもお相撲みたいになり
ただ早く暖かくしてあげたかったつもりが
遊んでいるのか
これで真面目なのか
なんなのか──
結局、みんなでまた汗をかいている。
いつも思うんだ。
うまく言えたらな──
家族を守りたくて
どれだけ体を鍛えても
できないことばっかりだ。
今日はオマエも汗をかいただろう?
あんまり落ち着いて入れるかどうか
私には何とも言えないが
さっぱりしてくるといいよ。

さくら

『よく晴れた日は』
いいおてんき!
おひなさまをだすために
だんだんおしいれのおそうじ。
もう2がつもはんぶんをすぎて
はやいねーって
おねえちゃんたちがいう
このごろ。
とってもあたたかいの。
ひなたぼっこで
ぽかぽかすると
しあわせ……
あったかいって
いいことばっかり!
ふゆのあいだにこごえていた
さくらはとうとう
おおよろこびで
せのびをはじめるの。
あれ?
いまいった
さくらは……
きれいなピンクのおはながつく
さくらの木のことかな?
それとも
にちようびにはついに
あやとびがじゅっかいも
とべるようになった
お兄ちゃんのいもうと、
おうちのさくらのことかな?
たしかめたくて
さくらはうらやまのふもとの
さくらの木をみにいった。
あったかいと──
からだがかるいみたいで
ふしぎとかけあし!
みんなでわいわいながめる
春のにんきもの。
うらやまの木は──
ちいさなつぼみを
つけはじめたように
みえるかも!
でも、さくらがちいさくて
たかいところがみえないから
むしだったら
どうしよう。
う、う、
うえーん!
むしはいやだな。
うーん、でも
はるになったから
むしがでてきたのかな──
あったかいから
なんでもできるまいにち。
あしたはひろいうらにわで
あやとびをするの。
お兄ちゃんもあそぶ?
いまはまだ
さくらの木より
おうちのさくらのほうが
げんきでみていておもしろいとさくらはおもうよ!

『厳しい掟』
まあっ!
だめだめ!
いけません!
いくらお兄ちゃんに買ってもらった
すてきな本で
料理人の大切な心掛けや
おいしそうなケーキの種類をたくさん
学んだからといって
いきなり台所に立って
まぜまぜや
こねこね、
あまつさえ
オーブンで
やきやきなんて
はるかに遠い夢!
あれ?
オーブンの場合は
めらめら──と言うほうがあってる?
ともかくだめ!
厳しいようだけど
これもわがやの決まり。
海晴お姉ちゃんは
ママから教えられ、
春風お姉ちゃんは
海晴お姉ちゃんから。
ひとつひとつ
学びながら──
長い時間をかけて
認められ、
やってみろの言葉で
台所当番ははじまる。
虹子ちゃんは──
お姉ちゃんと一緒にする
手洗いのやり方は
よくお勉強しているみたい。
えらいね!
じゃあ、飾りつけを
お任せしてみようかな。
できる?
チョコレートを絞り出して
絵を描くという
むずかしいこと──
虹子ちゃんがいろいろ覚えようとするのなら
蛍は自分が知っているだけの
楽しいことを全部
ひとつ残らず伝えるの。
おいしそうに見える飾りつけ。
みんなが喜んでくれる味の出し方。
大事な人を毎日笑顔にしたくなる
世界で一番
楽しいことを──
蛍が教えてもらって
今もどうにか
学び続けている
あれこれ。
どこまで伝えられるだろう──
たくさんのことを
長い時間をかけてじっくり勉強するの。
蛍の妹だから
できるよ。
そのかわり、おかえしに
虹子ちゃんの知っているたくさんのこと、
お兄ちゃんとする楽しい遊びの全部を
教えてもらいながらにしようかな。
全部──
知るまでお勉強は終わらないんだから。

『物語の続き』
次の駅で降りて
改札を抜け
まっすぐ伸びる駅前通りを
最初の信号を目印にして
徒歩三分……子供の足ならもう少し長く。
あっ!
窓の向こうにかすかに見えた
あの建物が
大きなビルの中に
地上七階、地下一階、
広い面積の売り場を持つ立派な書店──
今日のあなたたちの目的地よ。
見えなかった?
まったくもう!
それにしても──
電車の窓から眺めるこの景色も
考えてみれば、
だいぶ変わったものね。
私が小さな頃に
おこづかいをためてお目当ての本を探しに
ドキドキしながら向かったあの頃と
違うお店、
新しい建物──
虹子ちゃんが大きくなった時に
歩いた道の話をすると、
だいぶ違っていたりするのかしら。
もったいないわね。
海晴姉さまと手をつないで歩いた
あの頃の景色も
忘れられない──綺麗なものだったのに。
今日の私は
そちらには向かわないけれど
迷子には気を付けて、
コロナ対策をしっかりすること、
それから──
とりあえず6階を目指すといいんじゃないかしら。
少し大人向けなら5階か4階かな……
いえ、確実さを求めるなら
店内の案内板を参考にするのが一番だと思うけど。
一応、それだけ。
じゃあ、いってらっしゃい。
私も今日は早めに帰らなくちゃ
海晴姉さまにまたうるさく言われるわ。
あなたも氷柱姉さまも
虹子ちゃんも気を付けて。
暖かくてのどかな日だからって
寄り道なんかして遅くなると──
私は忠告したわよ。
家でお土産話を楽しみに待っているみんなの反応が
どうなっても知らないからね。

夕凪

『マジカル誕生』
夕凪がまだ小さかった頃、
氷柱お姉ちゃんに
おねだりして買ってもらった本は
おまじないの本。
あれから時は流れ──
夕凪はおまじないが
得意になったの。
クラスの女の子の
相談に乗って、
教えてあげているのは
晩ごはんに
おいしいものが出てくるおまじない。
勉強に集中できる
おまじない。
恋のおまじない。
けんかした友達と
仲直りができるおまじない。
あんまりいろんなおまじないが
得意なものだから
ほめられてうれしくなり
調子に乗って
勉強そっちのけで
研究をつづけるありさま。
こんなに夢中になれることが
あるのは──
きっとマホウ使いの生まれ変わりに
ちがいない!
明日はお兄ちゃんと本屋に行く虹子ちゃんにも
とってもいい感じの
ケーキの本が
見つかりますように!
おまじないをかけてあげなくっちゃ。
でも、かわいい妹の大事な本のことなのに
こういうときだけ運悪く
夕凪のおまじないが失敗したらどうしよう!
これから虹子ちゃんのところに
行く前に──
夕凪のおまじないが必ず効くおまじないを
かけておかないと!
そんなものあったかなあ──
お兄ちゃん、夕凪と一緒に
今すぐ考えてほしいの!