立夏

立夏のヒミツ』
うわわーん!
涼しくなって、お外で遊べる時間が増えて
汗をかいても走り回っても
もういつまでも
いっぱい好きなだけ
やりたいことができるようになった!
何をするにも気候のいい秋──
すばらしいことだ!
だけど──
ひとつだけ、悲しいのは
夕日を見つめるとき。
リッカはおセンチになり──
ああ、もう帰る時間になったと
力いっぱいに走れる時間ではなくなったことを
悲しむのだ──
日が暮れるのが早いんだよね!
おうちはいいものだけれど
もっともっと遊んでいたい気持ちは
どうしたらいいのだろう。
そこで考えた。
もしや──
誰の目も気にせず
時間も何もかも忘れて遊んでいられる
秘密の場所を作ったらいいのではないか?
むかし、そのいい場所は
秘密基地と呼ばれたという。
たまたま誰か、遊びの才能を持つ人が
そのするどい観察力で
風通しがよく
広々としていて
それなのになぜか誰にも見つからない
素晴らしい夢のような空間を
クリエイトしたという──
もう少し冬場になれば
こたつを出す部屋こそが、みんなが集まって遊べる場所なんだけど
それまでは──
立夏が見つけるしかない!
日が暮れて帰ってきた後も
おうちのどこか、
目印を知らなければいけない道を進み
合言葉でしか開かない扉を開け
おやつを持ちこみ
お手伝いを済ませた良い子が集まる場所──
どこかにあるような
そんな気だけはしているのだ。
もし見つけたら、最初にオニーチャンに合言葉を教えてあげるね。
それじゃ、さっそく探索の旅へ
行ってまいります。
期待して待っててね!
おやつもいっぱい箱に詰めておいてね。
おしゃれな服も出して気分を高めておいてね。
そこへ行くにはもうすぐなのだから──
それじゃ、チャオ!

吹雪

『クールダウン』
今日は涼しくて
穏やかな日ですね。
こころなしかいつもよりも静かで、
おやつもたくさん残っている──
きっと蛍姉がおだんごを作りすぎて
みんなが満腹になったに違いない。
小さな子供たちが言っていたように
たくさん食べたおばけたちが満足して
家に帰っていったということは
おそらくないのではないでしょうか。
おばけを観測するには──現代科学では難しいようですが
未知の存在に挑むには
私たちが知る力に頼るしかないのです。
しらばく観察していたところによると──
観月は催眠術にかけられたように、
あるいはただいたずらをして喜ぶように
シーツをかぶったりお面をつけたり
走り回っていました。
ときどき、観月が何人もいるように見えたので
おばけが最初に出会った観月に
化けていたのではないかと夕凪姉は言っていましたが
はたしてどうでしょう──
確かなことは、今日は静かで
みんなゆっくり
おだんごをほおばって喜んでいるということです。
現代科学で説明するなら
この状況は──平穏というのでしょう。
あるいは、次の騒がしい出来事の
前振りか、どちらかだと思います。
私が見ていた経験によると、そうなります──
蛍姉のおだんごは
毎年、おいしくなっていくと考えられる事実も
記録しておき──将来、役に立てて行きたいと考えます。

『お月見?』
うーん?
どういうことだったのか
よくわからないけれど──
子供たちのリクエストがあったから
お月見の時に蛍が個人的に着てほしくて
作っていると伝えた
家族みんなの分のコスプレ衣装は
早めに作って用意しておいたり、
おだんごもなるべくたくさん
作っておいたりしていたんです。
秋のイベントを
楽しみにしている子が多い!
このごろはなぜか、
まだしまっておいたつもりのうさぎの服を着て
歩いている子がたくさんいたり──
おだんごも、やけにつまみぐいをされている。
食欲の秋とか──
コスプレは──芸術の秋でひとつどうですか?
日が暮れるのも早くなり、
秋の夜長を日々実感するこの頃。
これはもう、だいたい秋のど真ん中ということにして
毎日、風流なお月見を楽しむ日として
おだんごも──かわいいうさぎになるのも
もう、ためらってはいられないのではないか?
心のままに
明るく美しい月を愛でるのは
もうだれも止めることはできないのではないか──
よく見ると、なんだか最近は
まだ中秋の名月には早いのに
毎夜の月は不思議ときれいで
私たちをうっとりさせるよう──
あの光に、なにか知らない魔法をかけられていたとしても
わからないくらいですね。
お兄ちゃんも、蛍のおだんご食べますか?
いっぱい作ってあります!
あと、うさぎのコスプレ──かわいいと思いませんか?
いっぱい作ってありますけど──
あ、サイズは直せるので言ってくださいね。
今夜も白くほのかな月の光が
地上の騒がしい営みを
そそぐように──ときどき、まぶしさにまたたくように
照らし続けています──

『何かがあった』
不思議なことだ──
みんなの分のおやつを買って帰ってみると
警戒するように遠巻きに観察され
いつの間にかおやつだけ取られて
誰もいなくなってしまった。
普段はまとわりついてきて離れないのに──
まるで膨張する宇宙のようだ。
宇宙とは──神秘的であっても、なかなか寂しいものだな。
しかも、なんだか聞いた話によると
先に帰ってきた私が
おやつを持っていったとか
あとから帰ってきた私がいたずらをはじめたとか
妙な事件が起こっているらしい。
そう──まるで素粒子の世界で
常識的でない出来事が発生するように、
あるいは光速に近づくとき、強い重力が発生するとき
ニュートン力学が正確さを失っていくように
現実にも謎は多いのだろう。
夕凪がまた探偵みたいな顔をして
ルーペで周辺の足跡を調べていたから
まあそのうち解決するだろう。
そう、夕凪に任せておいたら、らちがあかないと考えた
氷柱あたりの活躍によって
一応の決着がつくに違いない──
別に、おばけが入り込んで悪さをしているというわけでもなし。
おばけなんているはずがないものな。
私はたぶん──明日もおやつを買って帰るだろう。
誰かに言わせると
細かいことは気にしないようなところがあるらしいのだ。
今も──おやつを奪われる危険よりも
友達から聞いたおすすめのおいしいお店のことを考えている──
フフ──もしかしたら夕凪たちの活躍は
私の生活にはあまり影響を及ぼさないかもしれないな。
後で話くらいは聞いておきたいものだが──

虹子

『さがしています』
あれーっ?
おにいちゃん、
こっちのほうに
さっき──
まるいまあるい
おつきさまが
ちょこちょこあるいてこなかった?
みづきちゃん──
また、にげられちゃったのかな?
おともだちに
こえをかけ、
たのんでみて──
もうすこしさきのおつきみを
もっとはやく
もっとたくさん
みんなでみられるのなら!
かなえてくれたなら
おれいをしてもいいよ。
と、よんだのは
きつねに
たぬきに
むじな。
むじなってなに?
とにかくなんだか
ばけるいきものをさがしてきたらしい。
でも、ばけるいきものは
いたずらもするらしい──
こどもにばけて
おかしをぬすみ、
おとこのひとにばけて
おなかいっぱいたべてまわり、
おんなのひとにばけて
ひとをたぶらかすらしい。
たいへんだ!
みづきちゃんがめをはなしたすきに──
みんな、たぶらかされてしまうの?
おにいちゃんも?
あいつらは、それはそれは
びじんにばけるそうな──
そんなにびじんなら
やさしいおねえちゃんのみんなとあそぶのがだいすきな
にじこもたぶらかされてしまうの?
おにいちゃん!
あやしいびじんをみたら
きをつけて!
あ──にじこは
ばけるいきものじゃないから
きをつけてね。
にじ、かわいいけど!

ヒカル

『子供たちのうわさ』
汗をかいて
ひたむきに走っている時も、
涼しい風を感じて
立ち止まる時も──
家に帰ってさわやかにお風呂を楽しんで
ゆったりした気分の時でさえ、
秋の優しい気配を感じるときにはいつも
聞こえてくる──
企みのような、
また何かお騒がせかもしれないし
ただのいたずらをするだけか
あるいはあの子たちが越えなければならない試練に
立ち向かう悲壮な決意か、
何かをやろうとしていることだけは
静かに伝わってくるような
そんな気がする──
でも、家族で誰も知らない人がいないくらい
私がこっそり
秘密を探り出そうとする手腕は
あまりたいしたことがないので
つまり──
心配だけど
手助けもできないし
見守るだけしかできない。
うちの子たちが
悪いことをするわけがないっていうのは
わかっているけれど
それでも、やっぱり秘密で事を進められたら
はらはらするだろう?
あぶなかったらいけないし──
でも、できないなら
できることをするしかないからな。
春風や蛍は何か知っているみたいだから
子供たちのそばにいるのは任せてもいいんだろう──
どっしりかまえて
何事もなく自分たちの仕事をして
みんなが帰って来るのを待つだけだ。
それができれば、本当にいいんだけどね──
といっても
あの子たちだって何ができて何ができないのかわかっているはずだ。
無茶はしないはずだ──
まさか太陽を西から持ち上げたり
お月様を丸くしたりなんてことはするわけがないし、
のんびりかまえていれば
なんてことはないだろう。
うん、きっとそうだ。
あ、だけど──もしも何か
秘密のしっぽでも耳にしたなら
こっそり私のところに相談に来てもいいんだぞ──
オマエを信じているからな。

観月

『つなわたり』
いそがしい、いそがしい。
今日も暑かったの。
のんびり休憩も取りながら
お外で遊べるのが一番なのだが、
何しろ夏は
あっというまに過ぎて行ってしまう。
もうできない遊びも
だんだん増えていくだろうし、
子供たちが捕まえられない
来年まで出会えない虫もこれからはあらわれる。
鳥が夕暮れを帰っていくように
どこか知らない隠れ家へ消えていく、
あの子たちの中には
きっと、みんながまだ叶えられない
特別な願いを知る鍵になるものも
まったくないとは言い切れないし──
夏が終わる前に会いに行ったり
あそんでおきたかったり
あれもこれもで
なかなか腰を落ち着けている暇もないな!
ふうふう。
おうちのみんなも、同じことを考えたのか
なんとなく感じているのだろうか──
遊びに飛び出して
お手伝いの約束をした子が
時間になっても出てこなかったり。
そうなると、手が必要な時に
姉じゃたちに見つかったそのあたりの子は
みんなまとめて抱っこやおんぶで連れていかれて
緊急のお手伝いとなったりもする。
これも、夏の終わり──
季節の変わり目に
まだやっておくことがあるときにはよく起こるものじゃ。
後悔がないように日々を送りたいが、
そんなうまくいくことばかりで
日々はできていないからな。
いっしょうけんめいにできることをするしかない。
今日は──
やりたいことは、だいたいできたであろうか?
いつもみんなが遊んでほしい兄じゃがいて
わらわが手を引っ張ったり
抱っこやおんぶで連れて来たりできたら
そんないい日はなかなかないのだが
まあ、できることは
順番にやっていくのだ。
わらわが聞いた話では明日はまだ十五夜のお月見の見頃は来ないらしい──
それでも、明日にやりたい、あれやこれ次第では
まだその先のことはわからぬぞ!