綿雪

『風の中』
あたたかい日が続くようでも
今日みたいに急に
強い風が吹く。
まだまだ寒くて
油断ができないものです。
みんなもお外で遊びたかったけど
今日ばっかりは家の中。
お兄ちゃんや、お姉ちゃんたちは
もしかしたらお外に出られないみんなのために
おみやげを買ってきてくれるかなって
そんなお話。
みんなが大変な時は
必ず元気が出るように、
きっと笑顔になれるようにって
お姉ちゃんたちはいつも言ってたよ、って。
でも、こんな日だと
寄り道をしてお買い物をするのも
大きな荷物を持って帰るのも
簡単なことではないから──
それに、もしもおみやげがあったって
やっぱりお外に出て
なんだったら一緒にお買い物だってしてみたい。
小さい子たちはいつも
じっとしているのがむずかしい──
駆け出して行った先で
いろんなことを見つけて
お話をしてくれるのを知っているから
どうしても、ユキがご本を読んであげても
日なたで一緒に過ごしてあげても──
なかなか満足してくれません。
それに──
お兄ちゃん。
ユキが全然かなえられなくて
妹たちのために何もできなくても
お兄ちゃんがいてくれたら
みんなはうれしそう。
あらしのような強い風が吹いた日、
春がまだ遠いような寒さの中──
お兄ちゃんと遊べたら
それだけでいちばんうれしい。
だから──みんなは
お兄ちゃんや、お姉ちゃんたちが早く帰って来るのを待っている。
風が強くて、できることがなくて
元気な子供たちは今日、どうしたらいいのかわからない。
大事な春の出来事を
たくさん見つけて持ち帰るはずが
どうにもどこにも行けずに、途方に暮れてしまった──
ぽかぽかの日なたも
楽しいはずのお歌も──
お兄ちゃんと一緒にいるのがいいと
風の中でじっと震えて待っているようです──
ユキの読んであげる本には、まだ出てこない。
今日をどんなふうに過ごしたらいいかを──
お兄ちゃんは、ユキに教えてくれますか?
お兄ちゃんならきっと知っていると思うの──

青空

『はるのおしごと』
あたらしいおしごとが
はじまる!
はるがきて
あったかくなった。
あたらしいことをはじめたくなった。
ほんをよむ
おしごと──
おりょうりをする
おしごと。
うんどうをするおしごと──
よくはたらいて
おやすみするのもおしごと。
はるだから。
やってみたいことが
いっぱいあるから。
そらもおしごとが
はじまるかな?
おとどけものをする
おしごと──
はるがきたとおしらせする
おしごと。
なんだかわくわくして
うきうきして
はしりまわるおしごと。
そのあとでねむるおしごと。
どれがはじまる?
おにいちゃんはどれがいい?
あたらしいはるの
あたらしいそら。
どんないいものに
うまれかわる──
そらをみつけた
おねえちゃんたちが
おしえてくれて
きょうからはじまった
おしごとは──
かたたたき!
を、するにじちゃんの
おとなりで
かけごえをかけるおしごと。
いち、に。
よーし
かたたたきするほうも
されるほうも
がんばった!
あたまをなでてあげる。
そんなおしごと。
あしたもおしごと、つづくかな?
あたらしいこと、はじまるかな──
これからは、なんでもできる
そらがいる。
みんなのあたまをなでたくて
てがふるふる
あしがおどり
はるはもう、ついにやってくる──

観月

『春が来る』
ここしばらくは
あたたかくて良く晴れた日が多いので
暗がりを隠れて移動するのが好きな生き物や
かくれんぼをする子供たちが──
あまりいきいきと盛り上がって
はしゃぐことがない。
わらわはもっと
兄じゃに探してほしいのじゃ。
あっちこっちを迷って
右往左往してほしいのじゃ。
困らせたいのじゃ──
あんまり明るい日差しの下では
遊べなくなる遊びもあるということを
春を迎えた晴れやかな毎日では
忘れがちになる──
おいかけっこをしているが
よく考えてみよ。
ごっこだって
真剣になって逃げるのは
つかまったらどうなるかわからない時こそであり──
必死に逃げる相手だから
鬼の役をする子も楽しくなる。
闇から手を伸ばす相手に
逃げることしか知らないあの感覚が──
もう冷たくて薄暗い季節が終わってしまうから
どこかへはばたいて行ってしまわぬか心配じゃ。
まだまだ遊び足りぬ。
兄じゃを困らせ足りぬぞ──
まもなく日々は
浮かれたお祭りのような騒ぎと
まぶしい明かりに包まれる。
全てが人を祝福し──
歩みを始める手足に
活力を注ぐ──
こうなってしまえばもう
いたずらをしたり
つまみ食いをして逃げたり
寒くてくっつきあったり
布団にも潜り込んだりする遊びも
これまでじゃ。
新しい楽しみを知るために──
新しく出会うものたちの
教えを乞わねばならぬ。
そんなにいい出会いばかりが見つかるであろうか?
わらわはまだ小さいのに──
夜の闇で見る夢にすがって
はじめて世界とつながることを知る
ものを知らないわらべだというのにな──
いつも遊んでくれる兄じゃも
これからは──もっともっと夢の中に出てきて
暗闇にいた者たちよりもたくさん
わらわと遊んで
いろんなことを教えてくれて
それから──季節が変わっても
ずっと離れないと言ってもらわねばならぬ。
そうでなければ小さい妹は安心できぬのじゃ──

夕凪

『ホワイトデー』
ホワイトデーだ!
お兄ちゃんからお菓子のお返しを
もらえる日だ!
なにしろわがやは大家族。
お菓子の量も
それはそれは
なかなかのもの。
おいしそう!
さすがお兄ちゃん!
夕凪、食べるよ!
たくさん食べるよ──
それにしても、お兄ちゃんからの
心のこもったお返しが
こんなにいっぱいなのに
全部食べ切るには夕凪はまだ小さいの。
すぐおなかいっぱいになっちゃう。
少し残念だ──
こんなときに、夕凪の得意なマホウで
願いを叶えたらいいのかな?
夕凪の体がどんどん大きくなって
お兄ちゃんはお菓子を選んで夕凪に届けるのが
楽しくなって──
せっかくだからどんどんマホウをかけて
毎日がホワイトデーになってもいいし
お兄ちゃんが夕凪と一緒にいるのがもっと楽しくなってもいいし
お菓子がいつまでも減らなかったり
おなかいっぱいになっても、すぐ眠くならないで
食べていていいとか──
ホワイトデーには夢ばっかりがふくらんでいく。
お菓子に囲まれて
やがてお菓子に埋もれて
ついに世界中が
甘いお菓子で満たされた。
お兄ちゃんも、もうひとつどうぞ!
おいしいよ。
それから忘れてはいけない
いちばん叶ってほしい夕凪の願い──
お兄ちゃんがこれからも
夕凪のことを好きでありますように。
もっともっと好きであるように!
明日もあさっても──
寝てもさめても。
むにゃむにゃ。
おなかいっぱいで眠くならないマホウは
おしいことに今年は完成しなかったようだ──
他の全部は──叶っていたらいいんだけどな──

『マイペース』
今日もみんなは
ぱたぱた
そわそわ
春が来たから
やりたいことばっかりで
おおいそがし。
あれもこれも
おまけに目標に向かっている途中で
また新しい面白そうなことばっかり
見つけ出したりして。
キッチンにいる蛍のところへ
おやつを取りに
飲み物を見つけに
ひととき落ち着く止まり木を探しに──
その途中でいろんなことを教えてくれます。
風が強くても勇敢に飛び出していって
あわてて戻って来たり、
ときどきは狙い通りの目的を達成して
持ち帰るトロフィーはいっぱい。
お土産話や
いい形の小石や
良く片付いたお部屋へ招待もしてくれます。
蛍はだいたい
居心地のいい場所で
ぼうっとしているだけなのに──
こんなにたくさんの出会いがあっていいのでしょうか?
将来は、お料理を出して
お話を聞くお仕事でも目指したら楽しいかな?
茶店のマスターとして凛々しい姿を見せる蛍だとか
そんなことがあったら
おうちのみんなは毎日通ってくれるかしら──
こうして楽しく過ごしているのも
大忙しの春が来たから
マイペースな蛍をみんなが必要としているからというのもあるから
もうすぐ暇になってしまいそう。
いつも頼ってくれたらな!
もう、せっかくだし
春が来たことだし
自分も何か始めてみようか!?
それとも
こんなふうに遊びに来る場所にしてくれて
誰かのお役に立っているなら──
別にあわてることはないのかな?
なにもかも、春の陽気がいけないの。
たぶんそう。
ぼんやり考えて
ふらふらしている感じ──
楽しい夢を見ているような気配。
ずっとこんな日が、
家族のみんながわくわくしているのを
そばで見ていられる毎日が続くようにと
特に何も難しいことが考えられない陽気の中で
誘われるように──
気持ちは向かっていく。
明日もまた蛍はのんびりしているはずです。
変わらずおうちの中で──都合のいい考え事をして
夢の中にいるのだと思います。
ちょっと恥ずかしいですね。

春風

『春が苦手』
変わっていく生活──
新しい出会いと
新しい友達。
別れなくてはいけない人たちと
さみしい気持ち──
もともと、そんなに
器用でもないし落ち着きもないから
新生活の準備も
片付けもちっとも進まない。
要領の良さも手際の良さも
私ではないだれかのこと。
小さな春風は──
弱い春風は、
なんにもできない春風は
困ってばかりいて、
ふるえていて──
寒かった頃みたいに布団をかぶっていたといいます。
日の当たるお庭で遊ぶみんなを見つめながら、
ほころぶ花の香りを知りながら
春風はいつも
まわりのみんなに助けてもらって
泣きながら歩いてきたといいます。
鼻をすすり上げて──
家族がいてくれて
よかったと話しながら
そうしてやっと
ついに笑顔になる
春先の春風は──
その後もずっと、
なんにも変わることなく
何年も──
そしてきっとたぶん
これからも。
春が来るたびに困った顔をして
助けてもらわないとできないことばかり。
ほんとにもう──
どうしてこんなに急にいろいろ
変わってしまうんだろう?
ぽかぽか陽気で気持ちがいいから
ついついみんな
はりきってしまうのでしょうか?
今年もまた
だんだんあたたかく、
ときどきまた寒さが戻って来る──
こんな季節に
今までよりはうまくやってるみたいだと
みんなは少し──春風を見て安心するそうです。
ちっともそんなわけではないのに
ふしぎですね?
変わってしまうことばかりであわてていた春風は
助けてくれる人をたくさん見つけて
ほっとすることも増えたらしい──
お礼をしたいことも増えて行ってしまうらしい。
落ち着きのない春風にできるでしょうか?
また──布団をかぶって困ったり泣いたり。
ぽかぽか陽気の日を
一人では何もできない春風は──みんなと過ごしている。
あっ! また助けを求めるみたいにして手をつなごうとしています!
あなたはどうか──せめて、さみしがりの春風が泣き止むまでは
あたたかな手を離さないでいて──
この春もどうか、そばにいてくれますように。

あさひ

『ぽかぽか』
ほわほわ
ふわわぁぁ
ふいー。
──んっ
おおっ!?
ぷいいん──
ぽっぷ
ぷいいーん──
おおー。
そっ──
じーっ
ええーい!
あばばばっ!
(あったか
 ぽかぽかのおひる。
 みんなもたのしそうに
 あっちにいってはこっちにいって──
 あっちからおにいちゃんがきて
 こっちからはるかがきて
 いいな!
 あさひもなんだか
 あたらしいなにかをはじめたくなってきた──
 やるきがでてきた!
 こっそりおにいちゃんにちかづいて
 とびつくいたずらとか
 したくなってきたぞ!
 それーっ!)