バレンタイン14:18くらい

・海晴
暖かな光が差し込み始めた部屋の中で
まだ重いまぶたをうとうと
一気に開けようかもうしばらくまどろんでいようか
優柔不断にのんびりしていると
ぱっと思い出す。
この時間、布団の中にいるということは
そう。
今日は休日。
土曜日の朝は
おうちの窓に踊る朝日と、小鳥のさえずり。
台所のほうから、がんばり屋の早起きの音。
いつものお気に入りのみんなでいられる場所に、使い慣れた食器が並ぶ
にぎやかな声がしだいに広がる
うれしい朝食で一日の始まりです。
朝の天気予報は
毎日がんばった体に週末だけは
おつかれ!
また今度までに
ゆっくり英気を養ってくること!
ひとときのお休みで
週末はわりと自由に過ごせるから。
その気になれば
いちにちじゅう
愛する家族と一緒です!
その気になればね。
実際は、みんなけっこう用事が入る休日。
一日中そろって
お庭で
公園で
おうちで
遊ぼう!
とはなかなかいかないんだけど。
それも普段の休日の話で
なにしろ今日は
すべての女の子たちが待っていた。
たった一人心に決めた人へと今にも羽ばたいていきそうな
大好きな気持ちを言葉にしたくて
誰もが夢にまで見た
どこにだってすてきな愛の飛び交う情熱の舞台。
そしてこの日、
日本では
チョコを贈る習慣があります!
全国津々浦々
朝のまぶしい時間を
どこもかしこも
チョコを両手で大事そうに胸に抱きしめて迎える女の子の
あふれる思いが日本列島に
ぎゅうぎゅう詰め。
おさまりきらない!
そんな気がするの。
だって
きゃあー!
私もその一人。
年上のお姉ちゃんも
いつものお休みの朝とは違うよう。
気がついたら
はじまってしまった。
胸がバクバク。
お顔はぽっかぽか。
今日なの?
あげるの?
余裕を持って
年上らしく。
お姉ちゃんは
いつもあなたのことを思っているよ、って
愛する弟くんへ
言えるかしら?
その場になったら緊張して
挙動不審になって
海晴お姉ちゃん、どうしたの?
あわわ、あわわ、
あ、あの、
ずっと前から好きでした!
みたいな。
ああ……
ちょっとありそう。
でも、好きって言えたら
それで大成功だよ。
ちょっと緊張してしまっても。
早口になってしまったり
後でああいえばよかったなんて思い返すことがあっても
一言だけになってしまったってかまわない。
愛していると本当の気持ちを
言葉はくしゃくしゃのラッピングでも、勇気を出して届けられたら
それでいい。
だって、バレンタインは
年に一度しかやって来ない
誰もが幸せに迎える
特別な日
なのだから。
私はそんなひだと思っています。
だから海晴お姉ちゃんはがんばるの。
照れくさくて好きな人の顔も見られなくなって
つっけんどんに手作りチョコを、
それも、あんなにがんばって
普段はおおざっぱな性格なのにこの時だけは
目をぎらぎら真剣に、丁寧に混ぜ合わせ
温度計をじっと見つめてきれいになった
つるつる美肌のおめかしチョコ、
いっぱいの思いを乗せたチョコを
押し付けるように渡してしまって
こんなはずじゃなかったー!
みたいになりそうな予感も
熱いほっぺたは、もしかしたらと思ったりもするけれど。
でも、バレンタインだもん。
後悔したくない。
私に出来ることをするの。
愛を伝える海晴の全部を
これからも一生愛すると知っている
あなたに届けたいから。
恥ずかしくても覚悟を決めて
大好きなキミに告白します。
知っていますか?
私はキミのことが好き。
いつも一緒にいてくれて楽しいよ。
毎日毎日、感謝しています。
これからずっと、家族でいてほしい。
このまま、同じ生活を過ごして、
たまには急接近して
二人のステップアップを期待しながら。
同じ家族に生まれる運命で結ばれた私たちは
この一生の絆を大事にして
永遠に離れることなく
いつまでも愛し合っていける。
私の気持ちは変わることはない、
初めての恋なのに
心から信じられるのは
キミがいるからだよ。
私の愛は
こんなに情熱的な家族たちの中にいたって
誰にも負けない。
自信があります。
ずっといつでも
そんなことを考えている。
あなたが好き。
一緒にいたいな、って。
本当は、もうちょっと早く進展したい願いもあるけれど
本当の気持ちを伝えるだけで
女の子の胸は爆発しそうで精一杯だから。
チョコを渡せてよかった。
もっと言いたい私の気持ち、
これからも毎年届けられるといいな。
いつもありがとう。
あなたがこの家にいてくれて、私の毎日は幸せなんだよ。
今日の朝ごはんは
蛍ちゃんの特製のパン各種にチョコレートを合わせて。
小さなクロワッサンもかわいいね。
こんなに小さい幸せがたくさん
これからも、私たちの家に降り注ぎますように。
みんなで力を合わせながら
キミを中心にして。
がんばっていきたいと思います。

立夏
立夏だヨ!
ぴよぴよ
今年も一日まるまる
ラブラブ純愛バレンタイン
いちゃいちゃしよう!
用意したチョコ、
大変苦労して作ったチョコ、
かたちわるい……
これは小さなハート?
今もドキドキする心臓の形っていうより
むしろ別のなんだろう、
胃とか?
おなかすいてたのか? リカ。
しゅーん。
恋するももいろハートで体中いっぱいだと思ってたのに。
毎年手作りチョコに挑戦して
もう中学生のリカは、
小さなみんな小雨ちゃんたちより上手で
むしろ先生になって教えてもいいくらいの今年になったかな、
まぼろしだった……
まだぜんぜん不器用なリカでした!
ひよこだったー。
大人じゃないじゃん。
なにこれ!?
見た目、
ぎりぎりチョコしてる?
でも、がんばって作ったので。
そう。
毎年気合を入れて作ってます!
上手になっているかというと、そんなことはないけど
びみょうに
このあたりのまるいラインに?
チョコの。
食べてみたらきっと口当たりも良くて
とろけると思うヨ。
つまみ食いを我慢して、今年はどこにも欠けのないチョコ。
これでもそうなの。
受け取ってください!
リカ、
オニーチャンのことがすき!
気持ちを込めた手作りチョコだよ。
おいしく食べてほしいです!
どうしてオニーチャンはこんなに大きくて
リカはあこがれるのに
妹はちっちゃくて不器用で
なかなかうまくいかないの?
ふしぎ!
でも
くじけない元気は
リカのゆいいつのじまん。
たぶ、、お兄ちゃん譲りだと思います。
あのねー。
夕凪ちゃん、こんな風のごうごう強い日に出かけちゃった。
あったかく着こんで。
もっこもこして。
わあーっ
夕凪ちゃんがふくらんだ!
まるーい!
歩けるの?
ちゃんと周りを良く見て転ばないよう気をつけてね。
はーい
夕凪、いってまいります!
って。
ぶんぶん軽快に手を振ってたから、動きは大丈夫そうだ。
やっぱりリカみたいに失敗ばっかりで
それで今日は、明日からのお手伝いの約束をいっぱい引き受ける約束をして
おこづかいをもらったんだって。
ぜんぶ
お兄ちゃんのために使う。
手作りチョコ、
夕凪が上げたら喜んでくれるもん!
って。
けなげ!
やっぱり
簡単には負けない前向き家族なの。
かわいい妹だなあー
だきしめたい。
オニーチャンと一緒に
だーいすき
ぜんぶまとめたい!
そこで、リカもかんがえた。
リカも同じだよ。
へただよ!
みじゅくもの。
うまくいかないのはいつものことなの。
だから、助け合わなきゃ!
約束してた
おふろそうじと
おトイレそうじと
雪が降ったら、雪かきもします。
いきなりあそばない!
リカ、お手伝いする。
夕凪ちゃん、
一緒にやろー!
オニーチャンも手伝ってくれるよ。
ね?
リカのおいしいチョコたべて
元気もりもりにください!
形は悪いけど
味はたぶん、大丈夫。
リカは見た目も成長中の
プリティーな妹だから
ぷりっ!
チョコだってすぐに見た目も
リカがつくるんだもの。
きれいにできるようになるとおもいます。
その時は飛んでいって届けるから
今日のチョコは
まず味を楽しんで
おくちのなかでリカの気持ちを受け取ってネ。
おおきなリカになるまで
めげないで続けるぞ!
愛情込めた贈り物を
一生かけて
ぜーんぶあげるから
一つ残らずもらってあげて
リカの過激な愛をぜんぶ体で受け止めてください!
これからもずっと、よろしくね。

・麗
冷凍庫に保存して
普通のチョコなら、硬くなりすぎてしまうのは
別に私も
ふだんチョコを作らないから間違えたわけじゃない。
だいたいみんなだって、
女の子らしいお菓子作りが大好き、
あまいおやつと
あまーい愛情の時間が大好き!
とかよくわからないことを言いながら
そんなにいつも手作りチョコなんてしないじゃない。
チョコをとかして、からめるおやつ。
ケーキのスポンジにココアパウダーを混ぜるロールケーキだとか。
蛍姉様と春風姉様は得意技。
だけど
立夏ちゃんは食べる専門、
小雨ちゃんはお手伝い。
がんばってるのは見ていたけど。
バレンタインなのだから。
愛情を込めれば
うまくできる!
そうかしら?
私はどうせ
うまくできるはずもないもの。
最初から作らなくてもいいかな?
と思っていた。
何かいいのを買ってくるほうが。
けど。
今年は、
というか
今年もやっぱり
チョコのあまったるいにおいだらけ。
みぎもひだりも
お天気お姉さんもうまれたての赤ちゃんも
なにがそんなに楽しくて
チョコばかり選ぶのかしら。
これじゃあぜったい
あいつは虫歯になるから
チョコなんてあげない。
氷柱姉さまが
キッチンを鬼のような形相で見つめながら言い出したから。
ユキちゃんが泡だて器とボウルをかかえてあわてていても
びくびく、そわそわ横目で眺めつつ
めずらしく手を貸さないで部屋に戻って行っちゃった。
ふだんから
あんがい世話焼きでうるさい氷柱姉さまなのに、どうしたんだろう?
そんなに虫歯が気になるの?
でも、この人だって
ずぼらに見えて、ちゃんと歯を磨いてるみたいだけど。
旅行のときでも
大きな体でねぼけまなこをこすってふらふら邪魔になって
おつかれ?
星花ちゃんたちに心配されてるし。
だいたい、はしゃぎすぎなのよね。
いい大人なのに。
男の人だから体力があるって、本当かしら?
こんな人でも。
家にいる時は、小さい子の面倒を見るのも慣れたみたいで
どっしりしている感じがするときもあるけど。
一人でいると隙ばっかりだからみんなが近づいて
どーん!
ぶくぶくって泡を飲んじゃうのをよく見ているし。
遠くでさくらが泣き出す声がしたら
あわてて吐き出して
うがいもそこそこに、駆け出していく。
こっちが何事だって思うわよ。
だから洗面所はよく汚れている。
まったく男は!
でもまあ、小雨ちゃんたちと楽しそうに掃除をするまめなところもあるから、
ちょっと汚れるのは私も気にしないけど。
歯磨き、
ちゃんとできてる?
チョコあげていいのかしら。
いつもうかつで
うろうろしっぱなし。
落ち着かない人!
もっとしっかりしたらいいのに。
でも、
氷柱姉様が今年はあげないって言うなら
寂しそうにするかな、
落ち着きがなくて
どっしりしていないから
悲しんだらめんどうくさいかな?
でも、たまに。
しっかりしているように感じるときもあるわ。
私たちのお兄ちゃんなんだな、って。
おつかれさま、って。
ときどきね。
あげる。
温度を測って、何度も冷やしたり溶かしたりするようなことは苦手。
好きな人を思って作れば大丈夫だよ、って言われたって。
できればせめて
せっかく作るなら
上手にできる自信があって
おいしく食べてもらうほうがいいなと思ったから。
夕凪ちゃんに教えてあげたら、
今からでも、方向を変えるかもしれない。
それとも、やっぱりうまくいかない気がしていても
手作りチョコに挑戦したいのかな。
好きな人を思って。
材料を混ぜて冷やして固めるだけのチョコアイス。
固まったら何度かかきまぜて、空気を含ませる手間がかかるのは
誤算だったけど。
これなら、早いうちに食べなくてもしばらく保存できると思うし。
一日中チョコばっかりであきるかもしれないし。
またいつでも食べられるから。
夕凪ちゃんが帰ってきたら
あんなに張り切っていたから
また派手にキッチンを散らかしそうな気もするけど。
しばらくは冷凍庫にアイスが入っていると思うから
掃除が好きなら、休憩するときにでも食べたらいいわ。
アイスも意外と予想外の手順が必要で、
こんなの、人にあげるんじゃなきゃやってられない!
料理って何なの?
あきれたりもしたけど。
でもまあ、それなりに
おいしくできたと思う。
手伝うことがあったら、
私も休憩するときに
アイスでも食べながらできたら
まあいいかな、と思うから。
用事がないときには、呼んでくれたらいいかもね。
これからさっそく
夕凪ちゃんが騒ぎ出したら
やっぱりあなたはまた、
あわてたり吹き出したり
なぐさめてあげたり、はげましたり
うるさく大声で笑ったりするのかな。
まあ、おつかれさま。
バレンタインだけど、たまにはアイスでも食べて一息ついてもいいと思うわ。