バレンタイン

・海晴
年に一度のバレンタイン。
巡ってくるその日は
いつでも貴重でときめいて
人生で一番大事な思い出になる予感が
びりびり感じられます。
世界中の全ての結ばれたカップルたちも
こんな日を過ごしてきたのかしら、
なんて考えたり
私と同じように高鳴る胸を抑えて
苦しくても勇気を出して言葉にしたのだろうか、
とかね。
怖くなかったのかな。
失敗することは考えなかった?
幼い頃から抱いてきた全ての疑問の答えが
自分が向かい合う瞬間にわかる。
それにママも教えてくれました。
胸に灯った望みをかなえるために
立ち向かわなくてはならない。
いいえ、立ち向かうこと以外は何も考えられなくなる時が
誰にでも必ず来るんだと。
むかし願いを貫いて結ばれたママの年齢に
今、いちばん近いのは私だね!
私の愛する弟クンへ。
いつも最高の愛を捧げたいと思っているあなたへ。
永遠に変わらない気持ちがあると
一生をかけて伝えるために
今日、この日はやって来ました。
どうかあなたが世界で一番幸せな日を過ごす人でありますように。
私の力でその幸せをあげられるとしたら
もうそれ以上は何も望まない。
とりあえず、今のところは
そんな願いを込めたチョコレートは
決して姉妹で一番上手なものではないかもしれないけれど
私にできるのはこれだけ。
どうか受け取ってください。

・霙
どこもかしこもチョコレートの香りに包まれている。
街を歩いても
にぎやかな声が聞こえる玄関先でも
静かに目を閉じる部屋の中でも。
もしかするとそんな気がするだけなのだろうか。
あるいはいつの間にか
人はチョコレートと共にいつか至る場所へ辿り着いていたのか。
だとしたら今、私がいる世界は
私とオマエだけしかいない場所で
週末を迎えて未来どころか過去も全て失われた後の
永劫の中と言えるのかもしれない。
陶酔を誘う香りを放ち続けて遠慮がない
あのチョコレートとはいいものだ。
気がつくと、世の中はこんな素晴らしいものに包まれていたようだ。
だけど世界中にあふれるチョコレートを見つめ
魅惑的な形状ととろけるほろ苦さを知ってもなお
今日のために用意してみたいと願ったのは
私の手の中で姿を変えながら生まれた
見方によっては少し不器用な形のチョコレートであることは
なぜなのだろう。
あるいは彼ら漆黒の誘いが見せる風景は
隠して見せない腹の中にこっそりと
子供っぽい遊び心を含んで欠かさないために鮮やかとなるのか。
手作りチョコレートを渡すことでもらえる反応は
世界で唯一つ、ここだけのものだから。

・春風
春風は特別な日を迎えました。
花瓶に差した
いつもよりも少しきれいで香りのいい赤い花。
洗いたてのカーテンに広がる強い日差しと
この時を待つために選んだ服はふわりと広がる
汚れのない真っ白なシルエット。
あなたのために何が出来るのか
ずっと考え続けて、
思いつく限りできることの全てが
喜んでもらえるかどうか自信が持てなくて
どれだけ花嫁修業を積んでも
いざという時は無力を感じるのだと知り
結局、最後には
自分の素直な気持ちに従うしか
突き進む道はないのです。
私は王子様のために何でもしてあげたくて
甘いチョコレートだけじゃなくて
春風が思いつく全部の甘い経験を
ぶつかっていく体ごと差し上げるしか
できることはないんだわ。
こんな未熟な春風で
感情だけに振り回され続けるばかりで
いつかお仕置きをされても仕方がありませんね。
やがてあなただけの前に膝をついて首を差し出し
運命をゆだねるときが必ずやって来て
その時にあなたがどんな行動をとろうとも
チョコレートと共に誓った幼い愛の契約のもとに
春風はあなたのものになるんです。

・ヒカル
ずっと考え続けて
結局は答えが出ないこと。
前に進むしか道はないと納得しているのに
足だけは言うことをきかなくて動いてくれなかったり
うまくいかない可能性が怖かったり。
苦手なことに挑戦するのは
いつも鈍感な私の得意技だと思っていたのにな。
たぶん何も上手に出来ない。
器用な手作りもそうで、
言葉にして伝えることも。
でも、もうとっくに
ずっと一緒にいると決めているんだし
それだけは変わらない未来なんだから
たった一年うまくいかなくても
それでよしと受けとめるようにする。
私には向いていないって言い訳しながらでも
人並みにお菓子作りくらいは
かっこよく出来るようになるまで
いったいどれだけ時間が必要なのか知らないけど
ずっと先の未来が訪れても
変わらず隣にいてもらえる景色しか思い浮かばない。
あんまり上手にできなかった手作りチョコレートが
笑い話になるような遠い先。
来年か、十年後か
もっと遠く離れたかなたのことなのか知らないけど
それまではちょっと失敗した記憶も
胸の中に留めておいてくれるだろう?
信じているよ。

・蛍
うろうろ……
おろおろ……
ああっ!
山奥の大自然に住む大きな体のクマみたいに
蛍がのそのそしていたからって
何もはじまらないのに!
お兄ちゃんにあげたいチョコを
作ってみたり
それで足りなくておなかがすいてしまったときのために
もうちょっとボリュームのあるチョコも追加してみたり
渡すときはタンスを全開で選び抜いた
かわいいおしゃれをしたらいいのか
贈り物の飾り付けに気合を入れすぎたから
蛍までフリルでいっぱいだとうるさくないか
できることが思い浮かんだら
どれもしたいことばかりで
迷ってしまいます……
こんな寄り道ばかりの蛍では
お兄ちゃんに喜んでもらえないだろうか。
いつでもお兄ちゃんに助けてもらわないと
なんにもできない
ずっと小さいままのちびすけなのかな。
ううん!
きっとちがう!
乗り越えたい悩みにぶつかって
真剣になるとき
それだけでもう悩みは大体解決しているんだと
お姉ちゃんやみんなに相談されたとき
いつもそう答えてあげてきたのは蛍だったもの!
どうにもなりそうにない壁にぶつかって
悩んで泣きそうになったら
その時にはとっくに
答えにつながる道を歩きはじめているかも!
そうだといいな……
たまにはそういうこともあるかもしれないですよね!
お兄ちゃん。
蛍は、どうしてもバレンタインデーが好きで
この日だけは何があっても
力いっぱいになってしまい
困らせることもたくさんするけど
それでも、お兄ちゃんには最高の笑顔になってほしい気持ちが止まらない。
迷ってばかりの蛍は
それでもあきらめないことを覚えたおかげで
実はもう子供じゃないの。
証明する方法はさっぱりで
何一つ思い浮かばないけれど
お兄ちゃんが確かめたいなら
どんな方法でも協力したいと思いますので!
まずはこのチョコレートがはたして
お兄ちゃんを幸せに出来るかどうかを
蛍に確かめさせてくださいね。

・氷柱
チョコレートを渡すときのスタイルって
自由であるべきだと思うの。
たとえば
ラッピングしたかわいい包みでも容赦なく
振り回して殴りつけてみたり。
伝える言葉だって法律で決められてなんかいないんだから
どんな罵詈雑言を投げつけても
誰も困らない。
困るのは、そう。
あなただけ。
私の忠実な下僕だけ。
だったら何も気を使うことなんてないわ。
チョコをアンダースローで狙いをつけて鳩尾に叩き込むことに
何のためらいも持つ理由はない。
なんだけど。
でも、小さい妹たちがどこで見ているかわからないし
万が一にでも私の下僕のせいで教育的に悪い影響を与えてしまったらいけないから
気をつけたほうがいいと思うの。
だから普通に作った義理も義理の大義理すぎるチョコを
気持ちも込めずに手渡して
年にたった一度のバレンタインはこれで終了。
ああ、そうだ。
仮に見られていても
こっそり耳打ちする内容だけは
どんな地獄耳でも聞き取れるはずがないし
一言だけ伝えておくわ。
法律でも私の気持ちも
好きだとか
これからもよろしくなんて言わせることはできない。
でも。
偶然にも
ちょっとは上手に出来たんだから
一生分の感謝を込めて
これからずっと何があっても
チョコの味を忘れないくらい
とにかく、よく味わって食べるように。
下僕がいつチョコレートを食べられなくなるか先のことは予想できないから
そうなったらかわいそうだなと
精一杯食べるように
忠告はしておいてあげる。
それだけ!

・小雨
あ、あれ……
どこに行ったんでしょう?
立夏ちゃんは今年も小雨を助けてくれて
落ち込みがちに鳴るところを引き上げてここまで連れてきてくれました。
得意なおまじないを
たくさん教えてもらったから
自信がなくて怖くなったり、涙があふれそうになっても
どうにか、なんとか
うまくできたかどうかは自信がないけど。
って、これから渡すチョコにそんなことを言ってはいけないですね。
自信作ではないけれど
小雨がこれからどれほどの手作りチョコを作ったとしても
今日のような思いを込めることはできないくらい真剣に。
あ、あの、これだと今後の成長が全く見込めないみたいで
聞いていると悲しい話だったらどうしよう。
でもやっぱり、本当は勇気がなくて作られるはずがなかったチョコレートが
こうして形になっているのは
みんなのおかげと
いろんな助けがあったからで
小雨としては
とてもありえるはずのない事態が起こったものすごい事件なので
もう二度とこんな瞬間はないと信じられるくらい。
とんでもないことが起こってしまって
あの……
それでも、つたない出来のチョコレートですが
小雨の気持ちを
世界中のどんな言葉よりも伝えてくれそうな気がするんです。

・麗
よしっ!
私としてはまあまあ上手くいったから
今年は充分なバレンタインデートして満足するべきね。
よく思い返してみると
友達みんなが口を揃えて
ラッピングに努力のあとが感じられるねと励ましてくれたのは
もう初心者だったのが全部ばればれだった証にも思えるけど
でもいいの。
同情もあるだろうけど
それ以上は何も言わせないくらい
なんとか交換会を乗り切ったわ。
神様、もう適当な約束なんて二度としません。
誇りにかけて誓います。
何があっても……
たぶん、しないと思います。
えっ、何か用?
ああ……チョコレートね。
手作りにしては上手くいったみたいで
全部喜んで食べてもらえたわ。
だから、かけらのひとつも残っていません。
今年の麗の努力の結晶、手作りチョコは打ち止め。
どこを探したって出てこないわ。
だけどまあ……
おやつで使うかなと残しておいたお小遣いが
チョコの試食のおかげでだいぶ余っているから
私が下手なのを作るよりはきっと喜んでもらえるはずだし
少し奮発して買ってきた分が
ひとつ、ふたつ、みっつ……
選べなかったし候補をいくつか
並べるつもりで。
どれか好きなのを私からのチョコレートということにすればいいわ。
合理的でしょ?
お気に入りの味はどれなのか一緒に選んであげるから
遠慮なくどんどん封を切ってもいいのよ。
バレンタインの今日だけは
たぶんそういうのもいいんじゃない。
私が許します。

・星花
お兄ちゃんにあげたいチョコレート。
バレンタインのチョコレートは
そこそこお料理をするなら
難しくはないものの。
星花が作ると
よくあるふうで
平凡で
なるべくきれいに飾ってみたら
いかにもという感じの
手作りそのもの!
かっこよくは
ないかなあ……
一応、自分なりの
及第点はクリアできたかな?
あとはなんとか笑顔を見せて
お兄ちゃんにもらってくださいと言えたら
心の中でこっそりと
おいしく食べてもらえることを祈るだけしか
できることはなさそうです。
と、思っていたのに
リボンを整えて包みを手に取り
お兄ちゃんの前に出ると
恥ずかしいけど
星花が作ったものを
受け取ってもらえるんだ、
お兄ちゃんはもしかしたら
ありがとうって喜んでくれるかもしれないんだ、
どうしても
顔が自然と緩んで
ああっ、恥ずかしい!
うれしいのに
先に自分で決めておいた通りに
笑顔になって渡せたというのに
星花は、困ってしまうくらい赤い顔になっていると思います!

・夕凪
バレンタインデーには
バレンタインの歌を作って
バレンタインの踊りを踊って
お兄ちゃんの手をとり
飽きるまでぐるぐる回ったあとに
夕凪のチョコを受け取ってもらおう!
あのねえ
星花ちゃんと作っていたときに話したの。
いい物を作っても
自慢をしすぎないのが
たしなみのある振る舞い。
あんまりいいものが出来なくても
悲しそうな顔だけを見せないで
笑顔になれば
お兄ちゃんは受け取るときに悲しくならないで済むかも。
だけどね
うまくいったら
お兄ちゃんは絶対に
夕凪と一緒に喜んでくれるし
下手な出来で泣きたくなったら
いつもお兄ちゃんに励ましてもらうことしか
思いつかない夕凪だもん。
謙遜はなし。
やけに胸を張るのもなし。
夕凪は──
がんばりました!
それだけ言って
チョコと一緒に飛び込んでいけば
バレンタインはそうやって出来ていくんだから。
よくできたかそうでないかは
とりあえずお兄ちゃんのお口に合うかで確かめてもらうとして
夕凪、
2017年のバレンタインデーで
お兄ちゃんにチョコレートを渡すため
やってきました。
まずは一番はじめに
手作りチョコレートが完成したことから
夕凪と一緒に喜んでね!

・吹雪
チョコレートは
毎日食べるものではありませんが
たまになら良いと思います。
キミに食べてほしくて
それだけを願い
私の姉妹はチョコレートを作ります。
おいしいチョコレートも
形がいまいちなチョコレートもあるようです。
私のチョコレートは
四角い型に流し込んだのに
なぜか隅が目に見えて欠けています。
料理はたいてい、手順の通りに作れば
失敗するわけがないと教えてもらいながらの作業でしたが
たぶんこれは
失敗ではないと思います──
みんなが思い思いに
今の自分にできるだけのチョコレートを作りました。
そして、できそうもない複雑な工程を加えたチョコレートを作ろうとしたら
失敗をして作り直したりする場合などが
あったようです。
今も台所が騒がしいのはそういうことです。
姉妹たちが用意した全体から見れば
私のチョコレートは上手ではないと思います。
よくできたチョコレートを食べたいのであれば
明らかに不器用に欠けているチョコがひとつあるので
後回しにすると良いでしょう。
もともと、女性から男性に愛情を伝える日とされる
バレンタインデーですが
別にチョコレート作りが上手である必要はなく
無謀な挑戦で
あげるチョコレートがひとつもなくなるようなことを
しなくてもいいと、そういう判断もありえます。
だけど──
無謀であることに目をそむけ
根拠のない自信をもとに
低い成功率をあてにして行動するのは
どうやらバレンタインデーを体験する女性の考え方の一つとして
不自然ではないと観察できるので
困難は覚悟の上で
それでも確率的に失敗が前提の行動を起こす
私にもいつかそんな日が来るようにと
たまに願ってみるのもいいかもしれません。
キミもまた無謀にもそんなことを願ってくれたら
状況は少し、私の望む方向に変わりそうな気がします。

・綿雪
まだ子供で
少しからだが弱くて
お料理があまりできない
苦手なことだらけのユキが。
ほんの一瞬
一年にたった一度
一人で遊ぶのに慣れて
あやとりとお絵描きとお手玉
ぬいぐるみを撫でてあげるおままごとのために
ちょっとだけ手先が器用かもしれない
能力を生かして
作ってみたら
できあがったのが
ピンクのリボンで包んだ
ユキのチョコレート。
お姉ちゃんのほど
大きくはなくて
みんなほど時間をかけると
少し休みながら
形はたぶん
よくできて、
残るは味の問題です。
ユキは実は
もっと元気だったら
自分で作るあまり得意じゃないのより
どんどんどこまでも歩いて
どこかにあるかもしれないチョコレートだらけの国へ行き
いちばんおいしいチョコレートを
お兄ちゃんのために選びたい
けど……
そんなに歩く力はなくて
だいいち、大きなお兄ちゃんなら
そんなすごい国があったら
もう知っていて
いつでも行けるんですもの。
だからユキができることは
これだけでいいのかなと思います。
ハッピーバレンタイン。
お兄ちゃんの幸せなバレンタインデーに
ユキのチョコレートがもうひとつ加わるといいな。

・真璃
マリーは華やかでゴージャスさが足りないと
気がすまないようなときもあるけれど
あまり特別じゃない静かな日常も
愛することを知っている。
そもそもマリーの毎日は
フェルゼンがいて
小さい妹たちがいて
お姉ちゃまたちもまだまだ子供っぽくてかわいらしいから
あまり穏やかになりようがないんですもの!
いつかマリーがまだ見ぬ時代の歴史の本にあらわれるとき
とても心からゴージャスな人でした!
みたいな話ばっかりが残ると思うの。
だってこうしてフェルゼンと寄り添って過ごす日は
歴史の本に書きようがないし
どんな名文でも伝えるのが大変なくらいに
今、この時を大事にしたい気持ちは
胸の中で言葉にならなくて
でも近くにいるだけで
そんな気持ちだと確かにお互いが分かり合っている。
目と目で伝え合うといいのかしら?
誰も未来に伝えない今の時間を
マリーとフェルゼンで大事にしましょうね。

・観月
バレンタインデーが来ると
おなごはみな先を争い
チョコレート作りの本をひっくりかえして
台所で喜んだり悲しんだりして声をあげ
愛してる、と伝えたり
勘違いしないで、と怒ったりするのだと
わらわは学んだ。
それが今の時代を
一生懸命に楽しむコツの一つであり
古風な考え方をしていても
なにかしら教わるものがありそうにひしひしと感じられる
なんだかよくわからない熱気。
だけど昨日くらいに
チョコレートの匂いにうきうきして
べとべとの手でおうちの中を探検していたとき
いつもわらわがうまく逃げ切る
兄じゃとのかくれんぼが
最近はぎりぎり危ういそばを通り過ぎる接戦となってきたことを
どきどきしながら思い出したから
ちょっと良さそうな隠れ場所を見つけておいたのだが。
兄じゃがみんなからひっぱりだこの
本日、如月十四日だけは
こっそり手を引いて遊びに誘うことが難しい。
すきを狙うわらわの横で
また別の誰かが兄じゃの様子を伺い
わらわを出し抜くすきを狙っておる。
ひょっとして何か大変な
面白いことがありそうな日が来たのであろうか。
わらわのチョコレートを受け取って
よくわからないすごいことを
兄じゃと起こせたら
楽しいかくれんぼ遊びはその後でもかまわぬぞ。

・さくら
お兄ちゃん!
約束をまもって
さくらがチョコレートを持ってきましたよ。
あれ?
あれれ?
チョコは……どこかな?
シャツのなか?
ポケット?
おしりのうしろ?
も、もしかしたら
とっくにさくらのおなかのなかに!?
なんて。
うふふっ。
こたえは
せなかにかくしたさくらの手がもっていました!
わからなかったでしょう。
びっくりした?
さくらはがまんして
よだれがでるまでチョコをじーっと見つめて
それでもお兄ちゃんにあげると思うと
どきっ!
どきっ!
うれしくなるから
ひとりじめをしないで
食べないでいられたよ。
もう、お兄ちゃんが見ていなくても
お兄ちゃんにあげる大切なものを
りっぱに守ります。
これからはお兄ちゃんは
信じてくれる?
さくらはお兄ちゃんのことをかんがえたら
もうひとりでチョコを食べたりしないと!
お兄ちゃんが
どうかなあってお顔をしたら
さくらもあやしくなってくるの。
きっとそうだよって
さくらにおしえてね。

・虹子
おねえちゃんたちのチョコレートが
どんどんできあがって
おにいちゃんがどんどんうけとっていくの。
ひとくちかじって
おおよろこび。
ふたくちめで
てんにものぼるきもち。
にじこも
みていたらわかるよ。
よかったね!
おにいちゃん!
おんなのこは
チョコをあげてよろこんでもらえるか
もじもじするものだけど
おんなのこだから
チョコをわたせる
すごいちからがでるのよ。
こいをするから
とんでもないちから!
チョコレートをつくれるの。
にじこは
こいをしているかしら?
にじこ、チョコレートをつくるかしら。
おにいちゃんに
だいすきってチョコをわたすちからがわいてきた?
はい。
こいするにじこの
チョコレート。
すごいちからでできた
チョコレート。
おにいちゃんのおかげでつくった
チョコだから
おにいちゃんにあげる。
バレンタインは
そういうふうにできているのね。
にじこにわかった
かんたんなおはなしです。

・青空
おにいちゃんがすきなおかしは
なんだろうな?
そら、あててみる。
ちょこかな?
くっきーかな?
ちょこかな?
ばななかな?
やっぱりちょこかな?
そらかもしれないな。
よろこんで!
うれしがって!
おにいちゃんは
ちょこがすき。
ほたからきいたの。
そらもね
ちょこがすき。
あまーい
あまいの。
ちょこでできているから
あまい
あまくておいしい。
だからね
ほたが
おにいちゃんにあげたら
すごくよろこぶねって
そらにちょこをくれた!
そらのちょこ
はんぶんあげる。
ちょこはおいしいね!
うれしいね!
そら、ちょこがすき。
おにいちゃんもちょこがすきだから
いっぱいいっぱい
もってるね。
はんぶんちょうだい!

・あさひ
くんくんくん
あんまんま
にゃーにゃ!
あば!?
あばっば!?
おんばあー!
べろべろべろべろ
だあー
べろべろべろべろ
わっちゃ!
(あまいあまい
 おいしそうなにおいのするおにいちゃん!
 きょうだけか!?
 あしたもか!?
 これからずっとか!?
 あさひがべろべろなめても
 ひゃくねんなめてもなくならないおにいちゃんだ!)

立夏
えへへ。
まにあったカナ。
どうかな。
それは神のみぞ知るといったところだな。
何度も試してぐるぐる繰り返してみて
一番上手に出来たのを選ぼうとしても
ぜんぜん自信作なんて生まれない
それが、ある日のチョコレート。
リッカは思ったんだ。
もしもオニーチャンが
リカのオニーチャンでなかったら
こうしてチョコをあげられるような関係に
なっていたんだろうか、って。
どこにもないぜんぜんありえない話だけど
もしそうだったら。
それから、もしかして。
いつか時間が経って
長い時間が過ぎたあとにリカが大人になって
今みたいにただ
きょうだいだっていうわずかたったひとつの理由で
ずっと一緒にいてもいい家族が
何か別の理由で
離れてしまうかもしれなくなること。
たとえば
どちらかの修学旅行とかで2、3日会えないとか
あるかもしれない。
電話をしていたら大丈夫かもしれないけど
それでも。
顔が見られないなら
そうなっただけで悲しいなあって。
だけどね
バレンタインで
リカがオニーチャンのために
がんばったことを
忘れないでいてもらえたらね。
うまく出来たのかもよくわからない
世界に一つのリカのチョコレートの味を
たまに思い出してくれたらね。
いつもリカがオニーチャンのことを待ってるよ、
会いたくって、
夢中で飛びつきたくてしょうがない子がずーっとここにいるよって
変わらないことを
覚えていてくれたらね。
そしたら、バレンタインにヘマばかりしながら
がんばっただけで
何か報われるような
ちょっといいことがリカにもできたような
そんな気がするかもしれない!
年に一度の
特別なバレンタインだから
ちょっとはね。
忘れられない気持ちになりたいだけで
やってみた。
ぎりぎりになって
一番遅くなったけど
チョコをあげるね。
また来年は
もっと上手になるからね!
何があってもリカがオニーチャンのために
バレンタインをがんばったことを忘れないで
これからも期待していてください!
チャオ!