バレンタイン

・海晴
私の好きな人は、
私の一番大好きな人は
いつも私のそばにいて
困ったときにはすぐに
助けてくれる──
いつも守ってくれる。
私がどうしても全力で
あなたを愛するのと同じくらいか
もしかするとそれ以上に
私を愛することを続けて
きっと永遠にその愛をやめないのだと
なぜか私だけは知っている。
心の全部でそれを理解してしまう──
あなたが自分自身で思う以上に
その愛を信頼して
全部わかってしまっている──
これから二人で助け合って生きて行く。
二人なら──全てを分かち合うと決めたなら
これからどんな困難があっても離れないのだと
二人だけはもうわかっている。
ある時、恋の女神さまがやって来て
大切なあの人に
たまには贈り物をして喜んでもらえたらいいんじゃないかなって
助言をくれて──
そのためには──自分自身の持っている全部の力で
喜んでもらう方法を探したいと考えてしまった。
それが今日なのかはわからない──
だけど、おうちのみんなの何人かは
そんなチャンスがやって来たと
張り切ってしまうに違いない。
たとえ何もできないとわかっていても──
もしかしたら失敗ばかりかもしれないけれど。
なぜかあの人のために全力になりたくて
ただ喜んでくれる笑顔が見たいと考えた──
そんな日が一生に一度あるとしたら、
たぶん今日なんだろうと考えた子が
19人も姉妹がいたらそんなことがあったってしかたない!
ハッピーバレンタイン、私の一番大好きな弟くん。
愛を受け取る準備はもうできた?
できていなくたって──こっちにはもう関係ないんだけどね。

・霙
気が付くと
今年もこの日がやって来た──
時の過ぎるのは早いものだが
私たちを記念すべき日へ連れて行くのもまた
人の身にはどうしようもなく
大いなる定めとしか言いようのない
この宇宙の営み──
時の流れのみだけなのだから
逆らうことができないなら
身を任せるのみだ──
それは、人の心に浮かぶ
愛しい思いや
たまには家族を喜ばせてみたいと考えたりとか
そんなことを毎年、
時の流れにつられて試してみるのも
避けようのない自然の一部であり
私たちをこの場所で出会わせる仕組み──
まるで自分のしっぽをくわえる蛇のように
連れてこられたのがこの今だ。
不器用な私でも少しくらいは
チョコを作るのも得意になったことだろう──
愛情がこもっているし
宇宙の仕組みに助けられて回数を重ねてもいるし
チョコをもらうほうも
去年より男前になっている気がするから──
きっと間違いのないことだ。
うん、今までよりもおいしくなっているに違いない。

・春風
春風はこの日のために生きてまいりました──
降り注ぐ祝福──
果てしなく限りのない光の中を
羽を広げて飛び回る気持ちを
あなたにわかってもらえるでしょうか──
世界で一番おいしいと
自信を持って言えるチョコレートを作り、
気合を入れたラッピングをしたら
あとは、愛する人
世界で一番だと言ってもらうのを待つだけ──
少し不安でも、緊張していても
私にこんなふうに
ときめく幸せをくれるのは
この世界でただ一人あなただけ。
だから──あなたのためのチョコレートは
必ずおいしいに違いない。
春風にこんな気持ちを教えてくれるのはあなただけ──
どこまでも飛んでいける羽と──勇気があったとしても
春風は必ずあなたのそばを離れずに尽くすはずです。

・ヒカル
新しいことを始めるのは
いつだって怖いことだ──
失敗するかもしれない。
自分の力のなさを実感するかもしれない。
怖がって、固い甲羅に閉じこもって
出てこられなくなるかもしれない──
それでも私たちみんな──
やってみないとどうなるかわからないって
知っているからな。
普段からスポーツが好きなら
練習の結果が出て勝利につながる喜びは
誰もが知っている──
力を出し切れなくて負けるくやしさと同じくらいに。
私はよく知らないけど
他の場面でいろいろ学んで
別の道のりを必死で歩いて──
たどり着く場所が、ときどき重なっているのはなぜだろう。
怖がりでも、歩みが遅くても
いつも隠れたがる重い甲羅を背負っていたって
歩いていく先には
自分が信じたものが──もしかしたらそれ以上の結果があるなんて
誰もが知っているなんて、そんなことあるだろうか?
私のチョコレートは今年も不格好なものになったみたい──
でもまあ──がんばって作ったのは胸を張って言えるから
食べられないことはないんじゃないかな。

・蛍
ハッピーバレンタイン!
今年のチョコレートも
おいしくできました。
お兄ちゃん、このごろ寒いから
あたたかくして、おいしく食べてね。
とけないようにだけ、気を付けてね──
今年のバレンタインも、何か思い出に残る
特別なことがしたかったんだけど──
やっぱりチョコレートに本気! なのがあって
それから途中まで進めた計画が
反対されたりもして──
かわいいのに、不思議ですね。
まあ途中まで作っておいた分は
作りかけのまましまい込んだけど、
あの子たちも見た目の通りにやさしい子だと思うから
出てこようとか
いたずらしようとかは
たぶんないと思います。
またいつかお兄ちゃんにも見てもらえたらいいな。
それでは、今年のバレンタインを楽しんでくださいね。
おかわりはまだまだあるからね。

・氷柱
ああ、いそがしいいそがしい。
何が大変かって
どうして女の子らしいこともかわいいセンスも
ぜんぜん知らない私のところに相談にくる子が
いっぱいいるの!?
ってこと。
しょうがないから、読みなれないお菓子の本を調べて
ばたばたぴょんぴょん
跳ね回るようにして働きっぱなし!
まったく──家の中がうわついて落ち着かないったら。
あとで少し休むからそのつもりでね!
ちゃんと起こさないようにみんなから守るのも
チョコをもらった男の子のお返しのひとつじゃないかしら?
人のために調べたその分──
知識も増えて自分のことに役立てる場合もあるかもしれないけど。
なにしろ付け焼刃の知識、
短期間の促成栽培
大忙しの全力疾走。
とりあえずチョコが完成したのはいいけれど
本当においしいのか喜ばれるのか
どんな結果が出たのかなんて
今になっても自分にだって全然わからないわ──

立夏
立夏のだいすきな
オニーチャンに
立夏のだいすきなものを全部知ってもらいたい──
おいしいチョコレートがあると、
お菓子なんてどれだけおすすめがたくさんあるか
聞いてほしい!
ぜんぶわかってほしい!
感想を聞きたい──
そんなふうに
小さな虫みたいにまとわりついて
困らせたりしていないだろうか!
はいはいして
ちょろちょろする立夏
もしかしたら今はオニーチャンに追いつきたい赤ちゃんで
いつかは大きく羽化してきれいな蝶に変わり
ここまで育ててくれた恩返しができたりして──
だといいね!
本当にきれいになれるかどうかわからない
さわがしい女の子。
お兄ちゃんからはどう見える──?
話を聞きたくて
くっついて離れたくないのだ!

・小雨
ちゅうちゅう──
はっ!?
ごめんなさい、お兄ちゃん。
なんだかこのごろ
バレンタインの指導なんかでおうちの中で手が足りなくて
小雨が駆り出されることが
たまにあったりしました──
みんな大変そうだったけど
がんばってチョコを作ったみたい!
小雨の分は──小さめにして
そのぶん、ちょっと形やラッピングで工夫してみたので
そんなにおなかにたまらないかもしれません。
みんなのも、たくさん食べてあげてください!
それにしても──
あんまり役に立てなくて
一緒になってあわあわ言ってるだけの先生でしたが、
おうちを支える家族の守り神──
縁起のいいねずみの姿を見るようだとほめてもらえて
ついその気になって
うれしくなったりもしました。
小雨がいれば
おうちのことは全部大丈夫──
そんなことは全然ないけれど
いつかそうなったらと願う
その途中に、今日があるのかもしれないと思いました──

・麗
・麗
深く沈み
音もなく
暗い水底で私は──
冷たさにも耐え
孤独も気にしないで──
そんなふうにして
いろいろせわしない日も
やがて過ぎていくのだと考えている。
ところで、天使麗は──まだ何も知らない子供だと
みんなが言うものだから
たまにそんな気になることもある。
知らなかったのは
たとえば──
おうちの中がチョコのにおいでいっぱいになると
静まり返っていた水面から顔をのぞかせ
気になってしまうとか──
甘い味を口にしたら
ときどき──何の理由もなく思い出して
ぼんやりしていたとか。
私は一人でいいって
最初からずっと言っていたのに、
出会ってしまった時から
人を変えるものがあるという──
あなたもそんな経験をしているのかしら?
こんなにチョコに囲まれたなら──一度くらいはそうなってもおかしくないわ。

・星花
お兄ちゃんの後を
ちょこちょこついてまわり
うれしくなってしっぽをふりまわすしか
できることはなかったのに──
バレンタインだと聞いて
これだと思い
駆けまわるキッチンの中──
ときどき挑戦しているけれど
お菓子作りはなかなか上手になりません。
年に一度のチョコだって
去年よりうまくなったのかどうなのか──
いつもいつもお兄ちゃんを追いかけていたので、
ずっとそばにくっついて離れなかった
さみしがりやなので
この子はお兄ちゃんのためにお菓子を作るのが
あんまり得意じゃないみたい。
だから──
そんなに自信がなくても
またぶんぶんしっぽを振るのが丸見えのままで
走っていくのは今年も同じ──
一緒に食べたいと伝えたくて、駆けていくんです。

・夕凪
お兄ちゃんに挙げるチョコレートに
夕凪のおまじないをかけて──
最高のチョコだったとお兄ちゃんに言ってもらいたい!
いちばんおいしくできたチョコではないかもしれないけれど
みんなは夕凪みたいに
マホウの力を使えたりはしないんだもの──
まあ、夕凪もそんなにものすごく
人の心を変えてしまうほどではないんだけど
なんだか今日はできる気がしている──
ほうきに乗って空を飛び
会いたい人にいつでも会いに行けて
好きな人のひざに乗ってごろごろする──
あれっ!?
途中からマホウ使いではなくて
その横でのどを鳴らしてかわいくする
使い魔の黒猫になって──
ただ力を貸して手助けをしているようだ!
これではお兄ちゃんが夕凪のチョコを世界一おいしく味わう
そういう特別な力を持っていなくては
夕凪は大したことできないよ!
うわーん、どうしよう!

・吹雪
才能によって、
欠かさぬ努力によって
あるいは、繰り返される試行回数によって
やがて世界で一番のチョコレートは完成される──
その可能性はあります。
もしかすると、私たちの家で
それは実現されるかもしれない。
みんなが心のどこかで、あるいはと思いながら
それは続けられている──
バレンタインデーのチョコレート作りに限ったことではなく
実は、もっと多くの場合に
あんなふうに希望に満ちた──同時に不安を感じるような
あの顔を見ることができるし、
そのような時であっても
今日のバレンタインのように
一番ではなかったかもしれないけれど
ラッピングや、渡し方を工夫して
少しでも好きな人に喜んでもらおうか。
感想を聞いてまた来年には──
来年が無理でもその先にはいつか──
もしも永遠に動き続けるロボットであれば──遠い未来のいつかには。
そう考えるのは私だけかもしれませんが
ともかく──今年のバレンタインデーがやって来て
みんなが自分にできるだけのことをしようとしています。
世界で一番は──はたして、家のどこかで実現できているのでしょうか。

・綿雪
寒い日はまだまだ続くけれど。
体が冷えて
手が──頬が
赤くなって痛むときも
まだときどきはあるけれど。
このまま凍えてしまうのかと何度も思ったけれど──
どうにかユキはこの日を迎えて
お兄ちゃんにチョコを贈ることができました。
よかった──
寒くて、冷たくて
すっかり自分が山の奥に住む
あの白い雪女に変わっていたのではと
たまに考えたりもしたけれど
全然そんなことはなかったです。
それもそうか。
季節は春へと向かっていて
助かるのと──
あと、バレンタインデーが来るのを待っていて
お兄ちゃんに、ユキのお兄ちゃんに
みんなと同じみたいにチョコをあげたくて
あったかいキッチンにいることが多かったのが
もしかしたらよかったのかな?
あたたかくして過ごし──
みんなとチョコの話をして
春が来るのを待ち──
今は、少し頬が熱くなっているのを感じますが
たぶん──冬の寒さのせいでも山奥の妖術が呼んでいるのでもなく
どうやら体調が原因でもない──
たぶん、いいことが起こったんだ。
お兄ちゃんといるから
ユキはなんとなく、そう思います。

・真璃
世界中のおいしいチョコを集めて
いちばんを──
マリーの愛しいフェルゼンに贈りたいわ。
でも、よく考えたら
マリーは小さいし
女王ほどの権力もないし
それに、動乱の時代に生まれたドラマティックなふたりでもなく
いつでも一緒に過ごす家族だったの。
それなら──
フェルゼンのところへ行って
好きなチョコの味を聞いたり
味見してもらったり
特に理由もなく会いに行っても
なんにも問題ない気がするわ。
むしろ、そうすべきなんじゃないかしら。
兵隊をたくさん従えているわけじゃなく
自由自在に無限の手下を送り込む
あの、力を持った女王アリみたいな存在には
どうやらなれなかったけれど
愛しい人のためにバレンタインデーの準備をして
そして今日、なんと受け取ってもらうこともできた──
その喜びを知っているなら
マリーは何の力もない小さな女の子でもかまわない。
他に何も望まない、野心を持たない
たったひとつだけの願いを胸に抱えることしか知らない
女王でも何でもないマリー。
今日はそんなふうにして過ごすしかできないの──ずっとそうしたかったみたいにね。

・観月
ふー。
おや、兄じゃ、見られてしまったか。
わらわともあろう者が
お疲れで一息ついているところを──
まだ修行が足りぬようじゃ。
うむ、今年は何やら
あやしい気配が家の中にあったから
ばっちり早めに払っておいた。
修行が足りずとも──
みなを守りたい気持ちに助けられ
もう、そちらの首尾はばっちりじゃ。
今日の大事な日には何の影響もなく、
暗がりからの怨念も呪いもいたずら心も
すっかり追いやったので──
みなが本心からくもりのない愛情を届けることができたであろう。
もしも、何か不思議なことがあるように見えても
それはたまたまじゃ!
だと思うぞ。
こうしてわらわも巫女としての役目を果たしたつもりだが──
なにしろ、それだけでは終わらぬのが
今日を迎えた
すべての女の子の望み──
春風姉じゃがそういうなら、きっとそうなのだろう。
わらわがこんなに
兄じゃと──遊んでほしい気がするのも
そこが関係しているとみえる。
巫女の力でも抑えられぬ感情はある──
であるなら、何も我慢する必要などないはず。
もう──わらわに制御できない気持ちがふくらみきっているのを
兄じゃも知っているはずじゃ!

・さくら
しらないことが
ときどきある──
さくらは、おばけがきらい。
こわいこわい──
ないちゃう。
でも、もしもある日
おともだちになってねって
おばけがやってきたとしたら。
おいしいおかしの
つくりかたや──
お兄ちゃんがすきなおかしや──
かべをぬけて
やねをすかして
お兄ちゃんとたのしく
おやつをたべるときを
たすけてくれることがあったなら、
さくらはおばけを
そんないきらいではなくなるかもしれない。
ことしのバレンタインは
ひらめいたり、おもいついたりが
ときどきあったの。
だれかがたすけてくれていたのなら
なにもできないさくらはちょっとうれしい──
きょうは──お兄ちゃんといっしょだから
なにかさくらがこまったら
お兄ちゃんにたすけてもらおうっと!

・虹子
おにいちゃんのおひざにすわって
あったかくして──
チョコのにおいもする。
こんなにいいことが
せかいにたくさんあって
だれもこまるわけがない。
そうだ!
もしかすると
どこからかせかいに
しあわせをとどけるてんしがやってきて
にじこをみて
おにいちゃんをみて──
そうして、ここにいることにきめたのかもしれないね。
かわいいにじちゃんに──やさしいおにいちゃんに
しあわせをいっぱいおとどけしたいなあって
こしをおちつけたのは
まちがいない。
ほかほかで
あったかくて
チョコのにおいもするのだから
きっとそうなの──
にじこ、わかっちゃった!

・青空
わーい!
おにをみつけたら
まめをぶつけるひは
もうおわり──
ちょこをはこんで
おにいちゃんにあげるひが
やってきた。
はしれ、そらちゃん!
はやくおにいちゃんにとどけてあげて。
かぜよりもはやく!
おにになげた
まめよりもはやく!
それから──
おににまめをなげるひがすぎても
どっこいしょ、
ふくをはこぶよ
しあわせをはこぶよっていいながら
やってきたよくわからないあれやこれに──
おにか!?
まめか!?
ぶつけよう!
って、なげたまめみたいにはやく!
これはたまらんって
でていったあれやこれみたいに!
たぶん、ふくがきた!
てんしもきた!
まめをなげた!
それがみんなどこにいったか──よくわからないけど
おいかけたそらのあしがきたえられて
きょう、やくにたった!
とってもいいことばっかりだ──!

・あさひ
うおばっ!?
ううーん──
むにゃむにゃ。
はっ!?
おおーっば
あっば。
おにーちゃ!
あーたん
ぶっぶぶう!
だーっこ!
(はっ!?
 はるかにあやされて
 きもちよくねむっていたみたいだ──
 ゆめをみた──
 あさひがおにいちゃんのそばにいて
 てんしのはねがはえ
 いつも、これからずっと
 しあわせをおとどけするんだよ。
 いやだといっても、わけがわからなくても
 りゆうなんてなんにもなくっても──
 もう、みんながきめたんだからおにいちゃんはにげられない!
 あさひも──
 おにいちゃんといっしょがいいの。
 ああっ、こうしてはいられない!
 ちょこのいいにおいがするおうちのなか──
 こうふんするあさひ──
 おにいちゃんにあいにいかなくちゃ!)