バレンタイン

・あさひ
ばららん
にゃーにゃ。
あっぶっぶー。
はいにゃ!
とうにゃ!
ばいちゅう!
あっぶー?
(みつけた!
 おにいちゃん!
 おにいちゃんはちょこをたべるのが
 すきみたいだ。
 おくちにほうりこんであげよう。
 それっ!
 とうっ!
 もうひとつ!
 おいしい?)

・青空
もんだい!
うらのおやまに
ゆきがふって
ちいさいちいさいゆきだるまを
そらがつくったの
いつだ?
てがまっかになったの、いつだ?
そらはわすれた。
もんだい、
ふたつめ!
れいぞうこにいれると
ゆきだるまは
きえないでのこるかな?
ちいさいのが
もっとちいさくなり
とけてきえるまえ。
きょうまでもつ!
はい。
のこっていて
うれしいから
あげるね。
ちょこといっしょに
おいしくたべようね。

・氷柱
へー
バレンタインだって。
そんなの知らなかったなー。
でも、私ならちょっと練習すれば
すぐチョコレートくらい作れるからね。
さっと作ったものだから
あまり期待するなと先に言っておいても
私のすることだから
きっと受け取るほうはそうはいかないわよね。
下僕にはまあ
チョコを四つに切って並べた
これだけで充分よ。
よく味わって食べることね。
なに?
四つ切りじゃあ少ないって顔ね。
ふっふっふ
そう言うと思って
数学の知識を応用し
四つではなく五つに切ってみたの。
どう、物足りない気がしても
ひとかけらを手にとって見て驚いたでしょう。
やはり下僕の考えが一番読めるのは
この私しかいないみたいだわ。
……
男の子はたくさん食べられるほうがいいんでしょう?
五つ切りのチョコは
もう一枚うまくできたのがあるわよ。
欲しいならあげるわ。

・小雨。
ハッピーバレンタイン、
お兄ちゃん。
小雨のチョコです。
あ、あれっ?
小雨のチョコレートを
どこに置いたかな……
みんなが書いたチョコの絵がテーブルにいっぱいで
わからなくなっちゃった!
なーんちゃって──
さすがに本物は見てすぐわかりますね。
みんなで楽しみにしていたバレンタイン。
たくさん考えたアイデア
ちょっともったいなくて
並べてみたらお兄ちゃんは驚くかと思って
たくさんテーブルの上。
こんなに情熱的な思いがたくさんで
小雨の気持ちが埋もれてしまったら
どうしようと思ったけど
やっぱり絵と本物は違うみたい。
がんばって作ってみてよかった──
小雨と一緒に探し出してみたら
どうぞ受け取ってください!

・夕凪
お兄ちゃん!
夕凪はお兄ちゃんが何をもらったらうれしいか
一生懸命考えてみたけど
だんだん夕凪が何をあげたら一番うれしいか
そればっかり考えていたよ!
でも、きっと同じようなものだよね。
夕凪がお兄ちゃんにあげたいのは
夕凪の分と
家族全員分を詰め込んだ感謝の気持ち。
色紙に書いてみたらいいなと思ったの。
いつものお礼を
山盛りぜーんぶあげたいな!
だけど、思いついてからあまり時間がなくて
とりあえず夕凪たちのお部屋の三人分だけ
書いてもらったよ。
お兄ちゃん、がんばってみんなに書いてもらってね!
それから忘れちゃいけないチョコレート。
こちらは夕凪の分だけの愛情山盛り。
たっぷり詰め込んでおいたからね。

・海晴
今日のバレンタインは
みんなが特別な日にしたい──
毎年そう思って
同じようにチョコレートを上げていても
やっぱり──
今年こそは
いちばんの──
そういう思いが止められない。
なぜか今年ははりきる方向が
お兄ちゃんを驚かせて
思い出に残るものにしようと
そういう雰囲気になっているみたいね。
たとえばチョコレートの箱を空けたら
からっぽで驚き、
空箱の底を開くと本当のチョコレートがあるような
一工夫。
そのときは、空箱の底に刻んでおくヒントは
あなたが私を見るとき
初めて生まれるチョコレート──
みたいな。
私からあげたい
愛と感謝の贈り物は
どんなヒントを出したらいいのかな。
私だけがあげられる大人の味──
ということになるのかしら。
チョコレートの中に何が入っているのか、
食べたらどうなってしまうのかわからないから
できれば部屋に戻って落ち着いた
一人の夜に──
私のことを思いながらこっそり食べてみてね。

・春風
王子様──
春風の格好を見て驚きましたか?
王子様と出会って
月日を重ねて
いろんな出来事を積み重ねてきたのに
それでもやっぱりはじめてかもしれません。
きっとこの姿は
どんなに高価な装いよりも
あなたと私だけの特別で──
印象に残るものだと信じています。
実はウェディングドレスふうであらわれて
似合いますか!?
本物を着せてくれますか!?
というのも考えましたが
きっと王子様を困らせてしまうと思って
こんなふうに──
わざわざ家に帰った後で
制服に着替えてみました。
あなたと家族として出会えたことは
神様にどれだけ感謝しても足りないくらい。
だけどわがままな私はときどき──
もしも二人がただの知り合いで
また別の運命を辿るみたいに
春の桜が舞う学校で始めて顔を合わせた瞬間に
惹かれ合うとしたなら──
そんな想像も楽しいでしょう?
きっと今よりも初々しくて
かわいらしいカップルだったと思います。
春風のほうがひとつ上の先輩になるから
感謝の気持ち──というのは変かもしれないけれど
たぶん春風はたくさんお世話になっていて
どんな日々を過ごしたとしても
あなたのことを同じように愛していたと思うから──
そんな不思議な夢からの贈り物です。
いつもと違う──
とても不器用で甘酸っぱい味がするかもしれませんね。

・星花
お兄ちゃん!
はい!
色紙──
夕凪ちゃんの後をついて確認してみたら
どうも三人分だけで満足していた様子だったので
みんなの感謝の気持ちを──
星花も少し集めてみました。
まだ全員分ではなくて
急いで小学生チームの、同じ学校じゃない麗ちゃんの他の子と
まだ幼稚園の子、それから下の子を回るだけに
なってしまいましたが──
みんなみんなとっても喜んで
お兄ちゃんに伝えたいことがあると言ってくれました。
本当に私たち家族は
お兄ちゃんのことが大好きで──
こんな機械に感謝を伝えられるのがうれしくて
お祭り騒ぎもどんと来いで──
バレンタインにはいつもしたいことばっかり。
でもさすがは夕凪ちゃんで
みんなの気持ちに気がついて
動き出すことにかけては誰にも負けない。
ちょっと途中で飽きやすいけど──
星花が助けてあげられることがあればいいなと思います。
お兄ちゃんはどんなチョコレートが好き?
たくさん食べられるのを
星花がお手伝いできたらな。
喜んでもらえるかはわかりませんが
星花がおいしいと思ったチョコレートです。
あとで感想を聞かせてください!

・麗
どこまでも
どこまでも──
人の切り開く道がある限り
線路は続く。
だから私たちはどこへ旅に出て行ってもいいの。
本当は面倒なイベントも好きじゃないけど
でも、お姉ちゃんたちの試作品ももらえるし。
ちょっとはがまんして
家にいて──
チョコレートと
この前、ついつい寄り道した先で
ついつい贈り物がもう一つできてしまった。
はい、あげる。
好きな電車に乗って
どこへでも行ける切符だって。
道はどこまでも果てしなく
私たちを乗せてくれる車両は働きたがりで
そしてみんな誰でも──
心地よい揺れに身を任せて
新しい景色を見つける旅が好き。
だからあなたもきっと喜ぶと思うの。
まあこれは切符の形をした、ただのおもちゃで
実際にどこかへ行くにはお金と時間と家族の許可と
あとは一緒に旅をする人も
いるといいかもしれないけど──
でも、気持ちだけは
行きたいと思ったら
簡単に──どんな条件も越えて
どこにでも行けるつもりでいてもいいって
それが本当のことだと
教えてくれるおもちゃ。
私の家族と
あなたの行く道のりが──
素敵な旅になるといいわね。
行き先を教えてくれたら私もついていくこともあるかもしれないから。

・綿雪
いつもいつも
好きなのに──
ときどきしか伝えられないから
本当に気持ちが届いているのか
不安になる──
だからこんなふうに
心から好きなとき
お兄ちゃんが好きだと
何も心配せずに言えるチャンスがあるのは
とてもいいことだと思うの。
バレンタインデーって素敵ですね。
お兄ちゃん、
ユキには好きな人がいます。
その人がユキを愛してくれていること
いつもわかる──
とても暖かい日を
一緒に過ごしている。
朝に目を冷ましてから眠るときまで
ずっと──お兄ちゃんがいてくれるから
ユキの毎日は暖かい。
そばにいてくれてうれしい──
だから。
ユキもうれしいと思っている気持ちをお返ししたいのに
どうしてだかうまく離せるような気がしないの。
いつも──そうなの。
だから。
甘いチョコレートは気持ちを届けるには
ぴったりの贈り物だと思うな。
考えた人はすごいですね。
チョコの作り方を教えてくれたお姉ちゃんたちもすごい。
喜んでくれるかなって相談したら
きっと大丈夫って勇気をくれた
お姉ちゃんたち──
今のユキはその時もらった勇気で
どうにかお兄ちゃんにチョコレートを渡せるようになりました。
みんなで作ったチョコです。
お兄ちゃんにあげたくて作ったチョコだよ。
ひとりではできないことだったの。
世界に一つだけのチョコに
一つだけのユキの気持ちを込めて。
だからおいしいと──思います。

・ヒカル
なんだかちょこちょこ
していた妹を見つけて
つかまえて話を聞いてみたら
面白そうな計画を立てていたんだって!
だから私も協力してみたくなるのは
当然で──
ほら!
同じ気持ちのみんなが
いてくれるってわかる
私の宝物──
最初からオマエにあげるつもりのものだったもんな。
ほら!
中学生から高校生チーム、
それに海晴姉も捕まえて書いてもらった
感謝の言葉の──色紙!
いつもありがとう。
オマエが私の家族でよかった。
みんながそう言ってる。
言葉で伝えないと
なかなかわからないことだからな。
でも、これだと
伝えたかった言葉に気持ちを込めすぎて
チョコを渡すほうがオマケみたいになってしまうな。
まあいいや。
はい、私のチョコレート。
本当にいつも──
私たちといてくれてありがとう。
それは私だけの気持ちじゃないけれど
このチョコレートにだけは
私の気持ちが乗っていることになる──
と、そういうことだろうか。
来年も何かおもしろいものをあげられるといいな。
三枚に分けてになっちゃったけど
これで全員分の色紙になったかな。
ええっ!?
なんだか機会がなくて
麗の分だけまだもらっていない!?
……
よし!
もう私が食べるチョコはないから
あとはオマエにあげたのだけが頼りだ。
おいしいかどうかは自信がないけど
たっぷりチョコを食べて元気を出して
がんばって力をつけたら
きっとなんとかなるよ!
ふふ──
みんなの大好きなお兄ちゃんに
できないことなんてないはずだ。

・吹雪
といったような事情で
麗姉の言葉を書いた分の色紙はこれです。
おそらくこれが最ももらうのが
大変だろうと考えて
優先してスケジュールを調整したところ、
結局一人分しかもらえないことになりましたが
それでちょうどよかったようです。
感謝の気持ちに何を書いたのか──
書いてすぐ封筒に入れてもらったために
私は知ることができません。
もしもおかしな内容になっていたら
私の説明不足が原因かもしれないので
とりあえず話をして下さい。
話といえば──
氷柱姉がチョコを変わった形に分割する方法を相談し
計算をしたのも私です。
こちらは間違いがないはずです。
人間の手が計算の通りに動くのならば──ですが。
さらにみんながなぜか
サプライズを気にしているのは
私が提案したからです。
いえ、そのつもりではなかったのですが
記憶に残る出来事を用意するためには
驚きも一つの方法であると
そういう話をしました。
キミは私がこうして
チョコレートを贈る際に思い出に残るようにと
いろいろ考えているということに
驚きを感じるでしょうか?
私は少し──自分の行動に驚いています。
不思議な行動と、その原因の解明──
謎解きとして
考えるのが楽しい問題だと思います。
もしも今年の私に
驚きが足りないとしたら
もう一つ追加で
私が普段しそうもないと
キミと私が考えていることで
なおかつ、私がしてみたいと考えていることを
行動に移してもいいのかもしれない──
たとえばお互いの距離を
適正な範囲から
もう少し近くに置くことなどでしょうか。
その場合にどうなってしまうのかは
考えても答えが出なかったこと。
試してみるしか答えがわからないことを知ってもいいと
思うときもあります。


立夏
むすんで
ぎゅっと
つないで──
えっへっへ。
女の子なら誰もが夢中になる
バレンタイン。
リッカも今までにない
特別なことをして
オニーチャンをおどろかせたくて
たまらない!
でも、何があるだろう?
かわいい服とか
ちらりとかは
さりげなく普段からやっているなあ──
そう考えていたら
得意なことはだいたい思いついたときに行動しているから
あまりやらないとなると
苦手なことしか残っていない!
ということに
考えに考えて気がついたよ!
がーん!
リッカの苦手な
細かい作業。
手先を使った器用な趣味は
そう、飾りつけ。
包んでラッピングして
リボンを飾りたいー!
その欲望に
今度こそ!
応えてやりたい!
めんどくさくて
今まで何度も挑戦して挫折してきたけど
そんな不安は──
やりたい気持ちを全然抑えられないもんね。
どう?
リッカの愛情たっぷりのチョコレートの
この最終形態。
失敗したと一目で分かるということは
ないでしょう!
今年はこれで精一杯──
うまくできて驚かせるのは来年の課題でヨロシクね。
その時には今以上にたくさん育てる
愛のあまりの大きさでも驚かせるぞ!
キスでもチョコでも収まらないくらいの気持ちに
今度こそ上手なラッピングを──
するぞ!
おー!

・霙
容器を開けると
中にも箱があって
箱を開けると
一回り小さい箱がまた
その中に──
宇宙のあり方が
どこまでも続く無限をあらわすとするなら
この地球上に無限大を
作り出せないはずはないし
弟への愛情を
形にするならば──
私の気持ちは常に無限大の形をとらねばならないとは
前から考えていた。
街で見つけた面白い仕掛けの入れ物だが
はたしてどこまで続くのか
私があえて告げることはしない。
果てがあるものを
永遠と呼びはしない──
だから私が心を込めて
最愛の人に贈るからには
そこに果てがあるわけはない──
たとえ全てが終わりを迎える定めだとしても
この贈り物だけは──
ちなみにどれとは言わないが
いくつかの容器は
中空になったチョコレートを包んだものだ。
一番奥にきれいなチョコレートが詰まっていたから
終わりと油断しただろう?
終わりと思ったところにたどりついたときが終わりではないのだ。
オマエに教えたい大事なことはたくさんあるが
いつかはそんなこともそばにいるだけで
伝えられるように──
それも四六時中
あふれるほどにわかってしまうように
私の無限を届けられるようになりたいと思う。

・さくら
お兄ちゃん!
ここにさくらとお兄ちゃんの大好きな
チョコがあるの。
でも、さくらは知っている。
おいしいものをねらって
とりがやってくる!
はとがやってくる!
つばめがおりてきて
さくらのすきなおいしいものを
あざやかにうばっていってしまうの。
さくらがこどもだからなの……
でもね!
さくらだってまけてばっかりじゃあ
ないんだから!
チョコだってつくれたんだから!
つばめにとられないように
せいかおねえちゃんにたのんで
からてをならったよ。
あちょー!
お兄ちゃん、さくらがつよくなったら
びっくりする?
えへへ。
いつでもこい、
さくらはもう
だれにもまけないって
かまえていたら
べつにこなかった。
おいしいのにね、
チョコ。
まだ見つけていないのかな?
こんなにすてきなもの──
見つけ出せてさくらはうれしいな!
お兄ちゃんにチョコもあげられる。
よかったね!
きょうは──お兄ちゃんの分だけのチョコ。
またこんど
いっしょにたべよう?

・虹子
にじこのいちばんよろこぶ
いいものを
おにいちゃんにあげる。
チョコ!
チュウ!
にじこのかわいくうつった
おしゃしん!
もらうとうれしい?
にじこのいいものを
ぜんぶあげたいの。
バレンタインがきてしまったからね。
もう、なんだかんだいっていられない、
ぜんぶあげたい!
と、ホタおねえちゃんがいっていたから
にじこもだんだんそんなきがしてきた!
でも、にじこは
ひとりのかわいいおしゃしんだけじゃなくて
おにいちゃんとうつったおしゃしんが
ほしいなあ。
とろう!
とっておにいちゃんにあげる。
にじこもほしいけど──
きょうは
あげるの!
それとね、
みんなもたぶん
にじことおにいちゃんと
うつりたいから──
みんなでとるおしゃしんを
もういちまい
おまけにつけてあげる。
ああ、
いいな。
いいものがぜんぶうつっている。
おにいちゃんにあげる
いちばんいいチョコをもっているのが
ことしいちばんかわいいにじこ!
ちゃーんと
おしゃしんをとっておいて
かざったり
みたりしてね。

・真璃
ああ、ついにこの日が
やってきたのね!
マリーが生きているうちに
こんなにいい日を迎えることができるなんて──
想像はしていたけれど
本当に来てみると
やっぱり特別ね!
ずっと心配だったの、
フェルゼンに気持ちを伝える前に
もしもマリーが
恋の炎と情熱に焼かれて
息絶えてしまったらどうしようかと──
大げさに聞こえる?
でも、ちっとも言い過ぎではないのよ。
死んでしまいそうなくらい愛しているという言葉が
嘘であったことは一度もない──
恋する乙女に駆け引きが必要なのはわかっているのに
いっつもフェルゼンと一緒にいたいという気持ちでいっぱい。
何もごまかすことはできない。
その愛を全て注ぎ込んで作ろうとしたのが
バレンタインのチョコレート!
まあ、ちょっと見た目は悪いかもしれないけど
みんなと作ったの。
いろんな変り種のチョコを食べるのに疲れたら
マリーの顔を思い出しながらチョコを食べてね。
ああ、渡せてよかった!
別にそんなにいきなり
パンを求める革命の炎が王宮を焼き尽くすことなんて
この街ではあんまりないってわかっているけど、
だけど告白するときは命を賭けるのと
同じ気持ちになるってこと
覚悟していたんだもの!
もしも愛を伝えられなかったら
死んでしまうというのは
別にマリーだけじゃなくてみんなも同じだったと思うわ。
とってもおいしいチョコがたくさんね。
どれも命がけのチョコレート──
と言ったら、フェルゼンはおどろく?
それとも、ずっとずっとこんな気持ちだったってこと
隠し切れないかもしれないな、
もしかしたら気がついていたのかしらね!

・蛍
お兄ちゃん、もうおなかいっぱい?
みんなにたくさんもらえたチョコレート。
蛍が晩ごはんで用意したチョコレート料理。
やっぱり家族で
元気に愛の告白をするんだから
力をつけてもらわないとって
みんなが好きなものをいろいろ入れてみた
チョコお好み焼き──
でっかいのを
炊飯器でも作れるんですね。
定番のえびいかたこの海の幸、
きのこにおにくでボリュームアップ。
チーズもレーズンも
ちゃんと仲良くお釜の中で協力してくれたかしら。
食べても食べても
バレンタインと決まったら
あげるチョコにはおかわりはある──
台所を預かるものとして
どれだけ食欲旺盛な育ち盛りの子供たちに囲まれようと
負けていられないし、
お兄ちゃんがそろそろチョコはって思っても
ついついはしが止まらないようにするくらい
実現できなくちゃいけない
とても大変でやりがいのある野望でした!
蛍には叶えられないと思った夢は
お兄ちゃんと一緒にいると
すぐにかなってしまう。
あれもこれも全部──
だから、今日の一日が
楽しい気持ちのまま終わるころ
本当に最後の奥の手として
本当の本気を出した
今の蛍にできるいちばんより
ずーっとすごいことができると
お兄ちゃんがいつも教えてくれていることのお返しに
あげられる最高のチョコを
作ろうとしたら──
なぜか結局
溶かして固めて
ほんの少しの味付けを加えただけの
簡単なものになりました。
一口食べただけで
とろけるって
わかってもらえるにはこれはいちばん。
とても普通に見えて
でも絶対どこにもないと胸を張って言える
これが蛍の気持ちだから──
地味になるのはもう、そういうものだからしょうがないの。
私にできることの全部です。
受け取ってくれたら──うれしいの。
こんなに幸せなことはないというくらいうれしいの──
でも、おいしいと思ってもらえたらそれも幸せなような気もしています。

・観月
長い長い挑戦の日は終わり
乙女たちは懐かしい
日々の暮らしへと戻っていく。
誰が知ろう、
こうして迎えた明日が
物語の始まりだと言うことを。
誰が知ろう、
変わらないと過ごしていた毎日こそが
ハレの日の翌日に迎える
待ち望んでいた日であったことを。
朝に目を覚まして
いつもの挨拶を交わして──
何も変わらない日が
喜びの日の続きであったことを。
それはやがて
放っておいても
いつか気がつくものであろうか?
それとも今日を迎えたからこそ
その意味を知ったのか?
もう戻れないと知ってか知らずか
戦い抜いた家族たちは
決意の光に輝いている。
それは後光をまとうがごとくで
どこかで見ていて祝福をくれるものがいたようでもある。
兄じゃもよくみんなを見ていてくれたな。
きっとお疲れであろう。
静けさに届き鳴る音と揺れる踊りの影で
わらわにおりたお告げでは
明日からが大変だそうな。
なぜか体が重いような気がして
呪いのしわざだと思ったら
やはり食べ過ぎて体を動かしたくなったみんなと
少し運動をしてみるといいぞ。
わらわもその仲間に入っておる。
明日からもどうか
兄じゃの家族のことを──
よろしく頼むぞ、兄じゃ。
これから困ったことがあったら
神頼みでもして
なんでもお手伝いをするぞ──
いつもいつも、
ずっとわらわが一緒におるのじゃ。