氷柱

『氷柱の頼み事』
何も言わないで。
私だってわかっているし、
うすうす気づいている人は
他にもいるかもしれない。
そう──
春風姉様の指の傷は
とっくに治っているということ。
みんながあんまり
よくしてくれるものだから
春風姉様にしては珍しく
しらばっくれたふりをして
なんだかかわいいということ──
まあ、春風姉様は
たまには調子に乗るくらいでちょうどいいし
普段から、もう少しみんなを頼ってもいいと思うわ。
しっかりしていて──
誰にでも優しくて──
いつもみんなのちょっと後ろでにこにこしている。
あれじゃあ、春風姉様の普段の願いなんて
何にも叶わないみたい。
みんなと一緒にいられるだけでいいだなんて。
そんなの──
いや、待てよ。
そういえば春風姉様と
最近いつも一緒にいた人って
頼りになると春風姉様自身が頼み込んだ──
ふーん。
じーっ。
ま、私に忠誠を誓った下僕に限って
おかしなことなんてなかったのはわかっているけどね!
とにかく春風姉様もそろそろ
物足りないような顔をしていることだし
快気祝いにちょっとしたパーティーでも開いて
きりのいいところで普段の毎日に戻っていいと思ったの。
それで──
もし私だったら、あんまり大げさになっても困ると思うし
みんなの分のケーキでも買ってきて
それでお祝いっていうくらいがちょうどいいかなって。
どう?
それでそれで、
これから先も私たちを頼っていいんだと伝えるために
定番のお店ばかりではなく
何かこう──
春風姉様も驚くようなコネを駆使して特別なお菓子屋を探したり
なんだったらメッセージカードと
少しくらい手作りのお菓子を添えたりするのもいいし
私たちだってそれくらいできるってわかってもらったらうれしいし──
でも、そうするとキッチンを使う間、
いつも一緒にいる人に足止めをしてもらうことになるから──却下かな。
うーん。
とにかく明日の放課後までには買い出しに行くから
それまでに何か気の利いたことを考えておいて。
今度は私に付き合ってもらうの──
できないとは言わせないわよ、この私の下僕にはね。