氷柱

『伝達事項』
はいはい。
立夏が日記を奪われて
そのあと春風姉様が日記を離さず逃げ回ったおかげで
ぜんぜん書きかけだったことがあるようで
かわりに伝えておくように頼まれたわ。
まあ立夏はかわいい妹だし
私も特に下僕に伝える用事もないから別にかまわないわね。
えーと
まずは、そのいち。
……
ふむふむ、
この内容は
どうでもいいわね。
パス。
はい次。
なるほど。
これもパス。
とてもくだらないので
氷柱の判断でなかったことにするわ。
立夏も余計な話ばっかりで困るわね。
では最後に、
うーん……
まあこれは許容範囲ということで
存在を消すまでには至らないか。
はい、チャオ。
最近すっかり寒くなったので
暖かくして風邪を引かないようにすること!
以上!
おしまい。
あとは特になし!
まったく、立夏も春風姉様も
恋をした気分になったら猛突進しか知らなくて
アピールの嵐。
押しの一手ばかりというのもどうなのかしらね。
こういう駆け引きは釣りに似ているの。
エサを投げたら
食いつくまでじっと待つ。
これぞと選んだエサを信じてただ悠然と──
この境地が恋の本当の面白さであって
エサにかかった後に糸を引くタイミングなんて
おまけのようなものよ。
って、本に書いてあったわ。
立夏や春風姉様はまだまだ本当の恋の手管を知らない
お子様みたいなものなんだから
私が知っていることを教えてあげないといけないの
とにかく下僕は
寒さで体調を崩さないようにすることだけ
考えていればそれでいいの!
いつもの足りない頭で覚えていられることには限界があるし
それに家族なんて
元気でいてくれればそれでいいのよ。
くしゃみのひとつでもしていたら
ちびっこに近づくのを禁止するから
まず真っ先に私に報告に来なさい。
いいわね!
寒い夜は
良い子にして、早くおやすみを言うことね。