立夏

『ハンティング』
今日はリッカが日記を預かったよ!
まだまだ師走の
大変な日が続く春風おねーちゃん。
リッカに日記を渡すときも名残惜しそうだったけど
そのぶん妹としてがんばらなくちゃ!
元気では誰にも負けないから
オニーチャンも疲れたときは頼ってね。
いつでも貸し出しできる猫の手がある!
そんなリッカからの年の瀬ラブレターは
もちろん近づきつつあるクリスマスの話題。
どこまでも透き通っていくみたいに
冬の寒い夜空にキラキラ輝く星が
そのまま降りてきたみたいに街は光であふれている。
どこもイルミネーションがせいいっぱいに灯り
暖かくして見に来てくださいって待ってるの。
中学生のリッカのコートは
おこづかいで手が届くそれなりのもので
ぜんぜん夜の寒さに耐えられないけれど
でもいいもんね。
一人じゃないに決まっているし。
それに家にいる場合じゃないってドキドキしているの!
街にはサンタさんがあふれて
野生の勘を頼りに
片っ端から襲い掛かってすてきなプレゼントの謎を解き明かさないと。
なにしろここは日本、
あの怪盗ゴエモンの伝説も残る東の国。
サンタさんもひとすじなわではいかないだろうけど
こっちだってただものではないというところを見せてやるときが──
あれっ、
春風おねーちゃん、どうしたの?
え?
ええっ?
リッカの日記を──
な、
なになに!?
どうするつもりなの!?
こ、こ、これは──
どういうこと?
まってー!
たいへんだ
オニーチャン! たいへん! たいへん!
大怪盗ゴエモン
リッカの日記をうばっていったー!
……
……
……
……
……
王子様。
王子様。
春風の日記が
あなたのもとに届いているでしょうか。
ごめんね、立夏ちゃん。
一度はあなたに任せようと思ったのだけど
春風はどうしても
ズキズキと切ない胸の奥、
悲鳴のように叫び続けている命令に逆らえない──
ああ、王子様。
あなたに会いたくて春風はどれだけ涙を流したかわかりません。
まあ毎日毎晩顔を合わせて
ごはんを多めによそってあげたり
お風呂のあとでよく頭を拭いてあげたりしているので
会えない気分はただの例えですけども。
王子様も、風邪を引きますよって言われたら素直なの。
みんなに弱った姿を見せるなんてお兄ちゃんとしてできないし
それにいつも元気でないと
愛の言葉を交わすにも風邪がうつってしまう心配をしないといけないでしょう。
春風の恋人は元気でいてもらわないと、ですから。
いいえ──春風が決して風邪になんてさせません。
でもそう言っている肝心の春風が
しおれてしまっては──
というわけで
本当は毎日のようにでも愛を語り合いたくて
伝えたい言葉ばかりなのを
がまんしてはいけないと思うんです。
そんなときに
きのう──
吹雪ちゃんに頼んで
日記をはんぶん空けておいてと頼んで
大好きな人へのメッセージのチャンスを分けてもらおうとする
夕凪ちゃんの真剣な姿を見たとき──
そうか、恋する乙女は自分に正直になってもいいんだと気がついたんです。
春風と王子さまのかわいい妹たちは
いつだってパワフルでチャーミングで
たくさんのことを教えてくれる大切な存在。
すてきな家族に囲まれて
春風は幸せなの。
この幸せで増幅した愛のパワーを
分けてあげたい人がいます。
寝ても覚めてもその人のことを思っています。
年の瀬も迫って
寒い日が続きますが
いつも元気な春風をもっと頼ってくださいね。
きっと忙しくてもがんばれます、
というか春風がエネルギーを補給する手段は
あなたのお役に立つことしかないので──
必要なことです。
よろしくお願いします!
星よりもまぶしく
クリスマスよりも暖かく
あなたを優しい気持ちにしたくて。
サンタクロースもいるとなると
ライバルはなかなか手ごわいですが
覚えていて──
恋する乙女はなにものにも負けない。
あなたを愛する春風は
あなたのためだったら
なんでもできる、してみせる女の子です。
立夏ちゃんには私からまた謝っておきます。
それでも今はただ
あなたに触れられた喜びが胸にあふれているのが
いけない春風の正直な気持ち。
この気持ちに嘘をつくことは未来永劫決してありません。