『ダブルス』
2月29日、4年に一度の閏年の一日。
お天気は雨。
別に特別な日付ならではのことも何もなく普通に雨。
のち晴れ。
まあ4年に一度の天気って何かって思うけど。
オリンピック開会式みたいなお祭りの空気に似た豪華さや華やかさとか?
今日じゃないもんね。
別にいいわ、普通の日で。
そんな普通に過ごす当たり前な放課後は
雨は止んで日が差したみたいだけど、校庭はぬかるみだというわけで
立夏がなぜかきょうだいを一人ひとり誘って集めて
レッツゴーゴー体育館。
ヒカル姉様がきのうの夜から
雨なのかーって嘆いていたからね。
立夏も心は優しいところがあるのよ。
そういう子なのはわかっているの。
ちょっとうるさくて強引なのが面倒なだけであって。
ともかく体育館に行ってみれば
運動部がどこもそこまで強くはない我が木花学園らしく
バレー部やバスケ部がゆっくり練習を始めるまではスペースも余っていて
ちょっと体を動かしたい生徒のレクリエーションみたいなバレーボールのトス回しも
部活動の生徒の準備運動が交じり合って
まあ、まったりというか穏やかな空気というか
あんまりピリピリ厳しく大会の結果を求めていくわけではないのは
私がちょっと疑問に思ったところで別に何も変わらないまま
入学してもうすぐ丸二年も経つわけね。
ひとつ下の立夏ももう一年が過ぎる頃。
少しは成長したのかな。
大人っぽく落ち着きが出たりは……
まあ、あまり期待はしないでおきましょう。
かわりというわけでもないけれど、なるべく急ぎ足で大人になるしかない
成績優秀で頭脳明晰、
早熟型の私みたいなタイプがいるから
バランスは取れている。
ちょっとくらい幼すぎる妹がいてもね。
そういうブレーキを知らない立夏だから、たまに強引に誘われても
まあ仕方ないか、
そういうものだしね、ってあきらめもつくし。
ヒカル姉様の体力に付き合える自信は誰もなく
ほどよく楽しめたらいいわね、くらいのバレーから
転がってきたバスケットボールをきっかけに部員の人たちからシュートのコツを教えてもらったり
演劇部と合唱部が体力作りの基礎練習をした後、壇上で発声練習をするのに
立夏が連れて行かれて私たちまで着いて行かざるを得ない状況でやむを得ず……
声を出すのはそれなりに自信がある。
言ってもなかなかわからない聞かん坊たちを相手にするのも日課で
話に気長に付き合う必要もあるからで
別に叱ってばかりいるわけでもなく
私がまだ子供みたいにぎゃあぎゃあ言ってるわけでもないから。
そうなると
今さら演劇もね!
いつも情熱的に声を出して観客を相手に伝えようとしているようなものだし
まあ、観客と演者の一対一でね。
だから褒めてもらって、熱心に誘われても困ってしまうわ。
ふふふ。
結局、根無し草みたいにふらふらと体育館を渡り歩いた家族は
部員も少ない卓球部のお誘いで試合形式の練習に参加することになり
あんまり試合数が多くても時間がかかるからダブルスのペアを作ったのが
ヒカル姉様と蛍ちゃん、
下僕と春風姉様、
私と立夏になったのは
強いメンバーを分けたのだからもちろんこうなるのが当然……
そりゃあ私が下僕と組んでしまったら他に誰も相手になる敵がいなくて悪いですから!
ヒカル姉様と組むのが……
立夏ならまあ野性的な本能だけはあるし動きは俊敏だからいい戦いはできるかもしれないけれど
それが決勝戦と言うのもあまりどうかな、というわけで
この組分けは当然!
しかし!
フォローが必要な春風姉様と蛍ちゃんが
もたもたしているすきに
頭を使わず体力頼りでも充分な戦力になる立夏をもらった私たちペアが
不本意にもかなりぶっちぎった結果を残してしまったのは
今後のペア分けを考えるに当たって意味があるかもね。
もうたいていの組分けでは平等な勝負にならないのはわかっているから
ここはひとつ、全ての組み合わせをローテーションするのもいいのではないかしら。
のんびりした放課後には
大事なのは対戦成績や勝ち負けじゃなくて楽しむこと。
まったく──
帰ってくるときはすっきり晴れあがってしまったり
なんなのかしら。
下僕が望むなら
少し乾いた庭で別の競技で延長戦をしてあげてもいいわ。
延長戦、というかチャンピオンへの挑戦という形になるのかな?
いつでも受け付けるわ。
むやみに血の気が多くても
いつも力いっぱいで元気なのは悪いことじゃないと思うから。