『不動』
氷柱がちらちら
見ないようにしているふりをして
注目している様子は
まるで──
池にエサを投げて
魚がかかるのを待っている時のようだ。
きっと何か
いいエサを用意したのだろうな。
疲れたら私の胸でお休み、
とか。
あなたさえいれば他には何もいらない
とか、そんな気持ちを
言葉にして伝えれば
例え相手がこちらを見向きもしないで
人の気持ちにも気がつかないようで──
もしかしたら鈍感すぎて
話も通じていないのではないかと不安になっても
あとは魚の動きをじっと見つめるように
決して気付かれないように
相手の動向を探るしか
できることはない。
充分にやるだけのことはやったと
自分の行動を思い
恋する者に付き物の無力さも後悔も
ただ信じる力だけを頼りにはねのけながら
かかるのを待っていた先にはきっと──
たぐった釣り針には見事な
形もよく美しいダイヤに似た
黒い小豆が一粒みつかることだろう。
だがおいしい小豆を愛することにかけては私も遅れをとらないつもりだ。
お正月用に買い込んでおいたという
あの山盛りの小豆──
いいと思うんだ、
毎日のおやつにしても。
あるいはクリスマスケーキにあんこを工夫するなどはどうだろう。
一日でも早く
あの滑らかな味わいに触れたい気持ちで
私の心は焦がれている。
氷柱もそっちをよく見ているようだからな。
きっと思いは同じ。
そのためにきっと──
誰のしわざか決して気付かせないように
こっそりあんこレシピの本を
春風や蛍の目に付くところにおくという
涙ぐましくも可憐で、地道な努力を
すべてのあんこを愛する人と同じように続けているんだろうな。
なぜか小豆をしまった辺りには
まるで蛍たちから門番を頼まれたかのように
オマエがぴったり張り付いているが
おそらくそれも愛によるもので
きっと深い意味はないんだろう。
私は信じているぞ。
自分自身の愛を──
あの一粒一粒がこちらを振り向いてくれることを。
そして姉を愛する弟の惜しみない奉仕の心を。
愛を信じるすべてのものに等しく
クリスマスは訪れる。
清らかな夜に純粋な愛の実在を
きっとこの手につかむのだ。
信念の炎はどのような不安の嵐にも耐えてこの胸に燃えている。
あ、いや──やはりもう一冊レシピ本を買い足しておくことにしようかな。
オマエのおすすめ本を聞いてみたいものだ。