ヒカル

『プライベート』
ひとりひとりの持ち物は
それぞれが管理するのが理想的。
わかっていても、20人もいると話は違う。
というか考えてみたら
氷柱や麗がぷりぷり怒って
それはだめ!
けじめをつけないとだめ!
だめったらだめ!
どこまでがだめなのかはっきりさせるまで
服は共有しがち。
年が近い子は着まわすのが当たり前。
姉からお下がりをもらうのが当たり前。
私だって不満を言いながらスカートをはいてそのへんをかけまわって
何でも泥だらけにして帰ってきたもので……
とか懐かしそうにしみじみ語ったら、すごい昔のことみたいな気もしてくるけど
私たちみんなまだ子供だから、そんなに前のことじゃない。
たぶん。
小さい頃から誰の服かわからないまま羽織って出かけると
別に誰も怒るどころか
まあまあ
ヒカルちゃんかわいい!
なんて言われて驚いたあと
ああ、なんとなく見覚えがあるのは
これは春風の服なのか、って
その時初めて気づくことだったり。
私だってそんなに気にしない。
誰もこだわらない。
ついに6番目にきっちりした子が生まれるまで
困る子がいるなんて姉妹の一人も夢にも思わないままに過ぎて
立夏に動きやすいズボンをはかせたら不満だったなんて
後で大きくなって聞かされてから気づく。
そういえば立夏がときどきぐずっていたことがあったような?
あれはスカートが好きだったからなのか。
長い長いときを経て、ついに知る事実。
でもこの話をすると
春風はずいぶん前から気がついていたようで
ヒカルちゃんもわかった上で信念を貫いてかっこいいズボンをはかせるのだろう、
春風のひとつ下の妹なのにたくましい人なんだな!
感心していたのに
ただ単純に立夏ちゃんの不機嫌に気がついていないだけだったんだ……
ついに春風も初めて知ったという。
これもずいぶん前の話のような、そうでもないような。
とにかく私はあんまり自分では気にしないみたいだから
背が伸びて春風や蛍となかなかサイズが合わなくなってきた頃に
ちょうどよく見つけたのが男物だったから。
ああ、これはヒラヒラしてなくて着やすいし便利だなと軽い気持ちで
特に誰にも断りもいらないものだろうと思って
気温の上下が激しくてちょうどいい暖かいのがなかったら
洗った後にたたんでいないのか
片付けの途中でそのへんに転がしてあるだけなのか
それとも選択の必要があるのか微妙な丸まりになっているから
汗臭くないか軽くチェックして
くんくん。
これは変なにおいじゃない。
まだ大丈夫!
渋くて男っぽい色は霙姉の趣味か
それともやっぱりオマエの服なのだろうか?
ちょうどいいところにあって助かるなあ、
なんて軽い気持ちだったのに
霙姉はこういうのはこだわりがあるらしくて
漆黒の美しい深遠だとかそういうのは
けっこう大事に自分でしまって、手入れも気を使っているらしい。
これは今日になって初めて知った本当の話。
昔からボーイッシュなのがあったら霙姉!
と思っていたら
ちゃんと自分の服の管理はしっかりしているんだって。
あれは海晴姉や春風たちが冒険しようとして選んだものだったという……
そして最近では結構はっきり好みがあるから
男物に見えたらほぼ間違いなくオマエの服だと
私が着ているのを見つけて相当驚いたらしい氷柱に
わりと昔からみんなの好みだから誰のものかわからないと説明したら
姉たちを回って丹念な聞き込み調査で裏づけを取った探偵が
それはまさしく下僕の服だったじゃないの!
なんとなくそんな気がしていたのよ!
どうも少し怒らせてしまったみたい。
やっぱり年が近くても、あんまり当たり前に着まわすものでもないのか……
氷柱がちょっと薄着で寒そうにしていたから貸してあげたらいいだろうか?
みたいに考えていたけど
もしも実行していたらどうなっていたことか!
考えるだけで……
きっとまた飛び上がるくらいおどろいてくれそうで
面白かったかもしれないな?
と考える私は反省が足りないんだろうか。
まあそんなわけだから、これは返すね。
今度からはちゃんとしまっておくこと。
これからはその辺に放り出しておいたら
私がもう自分のものだと思って
これはもらっちゃったから!
って説明すれば
話も簡単。
氷柱も納得するだろう。
気をつけないと、とられちゃうぞ。
私も勝手に持っていかれないように
たまにはがんばってしまってかなくちゃ。
ちょうどよさそうなサイズがいっぱいあるもんな。