観月

『はだし』
お休みの間はぎりぎりまで晴れを保っていたお天気も
そろそろ変わり目の時。
雲は厚く
しとしと降り敷く雨は冷たく
霧に包まれた白い景色は、ぐっと寒さを増してしまう。
立夏姉じゃが部屋にあった服を適当に着こんで
センスが微妙だったりするのは
見ているほうが寒いから何か着て!
と言われたからで本人は悪くないという。
ここまでは立夏姉じゃの主張なので真相ははっきりしないが
上着を選ぶのももったいないくらい
帰ってきてからみんなに遊んでもらいたくて仕方がなかったというのは
霙姉じゃの観察によるものであって
こちらはどうも本当らしいと
家族の意見はひとつであった。
ここで疑問となるのは
つまりこれは、立夏姉じゃは本人が言うほど
毎日のおしゃれに気を使う大人っぽい女性になったかどうかという点や
大きくなっても、家では気を抜いてしまいがちなのは
もしかしたら海晴姉じゃの様子を見ていても仕方のないことなのではないか?
などの話があったり
海晴姉じゃからの抵抗もあり……
それとも女の子らしくて美人で誰にでもすぐ好かれる愛嬌のある
やさしい立夏姉じゃでさえも
おうちに帰ってきてお兄ちゃんに遊んでもらう誘惑には耐えられないのではないか。
なのじゃなのじゃ。
立夏姉じゃがわらわの口真似をするから。
それでちょっとおもしろい服装になったという理屈も成り立つのでは?
うーん。
考えられることではあるな。
昨日とくらべて急に気温が下がったものだから
青空がまだ変化についていけなくて
せっかくはかせてあげた靴下をたちまちほうりなげてしまう。
もう秋だから、と言い聞かせても
どうもよくわかっていない様子ではしゃぎながら
靴下を脱いでしまって
上着も脱いでしまって
パンツまではどうにかふみとどまって
ひりひりしそうな寒そうな格好で夕方になっても走り回るから
やっぱりどうも汗をかいて遊びまわるのは
何事にも優先するらしい。
まもなくのお月見の準備ですすきを飾っていた蛍姉じゃの周りを
青空が駆け回るので、蛍姉じゃがあわてだして
さらにまた、青空にすすきをとられないように氷柱姉じゃが持ち上げて
とれるものならとってみなさい!
跳ねる青空を面白そうに見ていたものだから
どうやらお月見とは、すすきを持って踊るものらしいと
青空がお夕飯の席で報告してくれた後。
氷柱姉じゃが説明に苦労するようだったが、はたしてあれで通じたのであろうか?
途中で青空が席を離れてお片づけのお手伝い。
難しい話より、お皿をまとめるのが青空のお気に入りのよう。
お月見とはどのような意義があって
わらわはいったいどう過ごしたいのか。
説明しようとする側にこそ
自分と向き合い、素直に受け入れる準備が必要で
教師となるのは氷柱姉じゃではなく、わらわではなく
青空の前で考えることを要求される
生徒として背を伸ばし立っているのではないか……
お月見を安らかに過ごすのも、どたばたするのも
自らに問い、青空に教わった経過のとおり
それ以外の何物にも変わることはない。
立夏姉じゃを落ち着いた大人のお姉さんにするためにできることも
鏡に向き合うような正直な心から出てくる言葉でしか語れない。
だからすぐにきれいな靴下をぽいっとしてしまう青空に
虹子が気取って言い聞かせて
かわいく女の子らしくなるようにしましょう、
お兄ちゃんに見てもらえませんよ!
よくわかっていないなりに迫力に押されて受け入れていたらしい青空と
その横で自分に言われているわけでもないのに同じ目線に座って耳を傾けていた立夏姉じゃが
うんうん感心してうなずいていたのが
明日には効き目が出るのか。
さすがに、それは期待しすぎで
そんなにすぐに影響があるものでもないのか?
ぎらぎら激しい夏を過ぎて、心穏やかに移り変わる色を見つめながら過ぎる季節。
あまり刺激が足りないようでは、物足りなくなりそうな予感も
青空だけではなく、落ち着いてばかりいられず
面白そうなことをきょろきょろ探す子供たちの目にあるけれど。
ゆったりと、ちょうどいい服を重ねる楽しみも見つかるはずの頃。
見渡せばそこらじゅうに色づきはじめた季節の知識の園。
少々雨にけぶっていても
なに、そこに見つけるのは常に自分自身にほかならぬ。
長い時間をかけるのも愉快なものだと思いながら
ときに優しく穏やかに見える花の色を受け入れていくのも良いであろう。