氷柱

『春の思い出』
今日は暖かくて
いい日だったわね。
寒い冬の毎日に──
こんな時があると
砂漠でカラカラになった喉が
潤うように
暖かさのありがたみがわかる。
お外に駆け出すみんなも、
いつもみたいにヒカル姉様に甘えて、
遊んでもらっていたみたい。
文句も言わずに
いつも楽しそうなヒカル姉様は
わかっていたことだけど男前だと思う。
だから、どんなときにも一言余計なことを付け加えて
無駄に反感を買わないではいられない
私とは大違い。
本当に同じ家族なのかって疑うくらい──
まったく何が違うんだろうって
無口になったらしい私を
目ざとく見つけては
氷柱もたまには甘えていいんだって、
この際だからどれだけ大変なことがおまけでついてきたって
同じようなものだから、
だそうよ。
ほんとにもう──
同じ素材でできた生き物なのかしら。
なじめない私のほうが
宇宙から来た別の生命体のよう──
まあ、日差しがありがたいのは
地球に適応している証拠だから問題ないのかもね。
そんなヒカル姉様だから、
みんなが欲しがるに決まっている
のどかで落ち着いた春の日を
一日か二日くらい持ち帰ってきたのが
今なんじゃないかって
そういうこともありえると思わない?
冗談だけど。
みんなに何にもしてあげられない私の代わりに
同じきょうだいのヒカル姉様がいるんだから
神様は人間関係のバランス感覚がいいと言えるわね。
うーん──でもまあ
私も下僕が女の子だらけの家で
一人前の紳士に成長するまでの間
気にしてあげているのだから
仕事はしていると言えないこともないわね。
ほめてあげたり
叱ってあげたりしているでしょう?
暖かい日をみんなでいられるのが
みんなの中心にいるあなたのおかげだなんて
よくわからないことを言い出す春風姉様に
私ほど難しい理屈も持ち出さないで
笑って流してあげていたでしょう。
下僕にしては──気の利いた優しさだわ。
次の機会があったら
ちゃんとヒカル姉様の活躍のことも言ってあげてね!
男らしさが春の一日くらい連れてくるのなら、
たまに優しい私の下僕だって
家族で過ごした暖かい日の功労者になってしまうんだから。
いや──別にそれでもいいんだけどね。
明日からはまた寒くなるみたいね。
地球外生物が迷い込んだみたいに
女の子だらけの家の男の子だって
寒いのは苦手なんだろうから──
下僕が寒そうにしているときに叱る準備はしておくわ!
覚えておくことね。