氷柱

『今日も』
今日も暑いわね。
だらだらして過ごす以外に
何も思いつかないくらい──
でも、私たちの家族には
みんなの、頼りになるお兄ちゃんがいるんだもの。
女の子だらけの家にやって来て
あつかましくもそれが普通みたいな顔をして家族になったからには、
たまには役に立ちたいなとか
殊勝なことも考えているって
もちろん、ご主人様の私も知っているわ。
そうでしょう?
ただでさえ暑いのに
料理でさらに大変なことになる台所へ
王子様のように駆けつけて、
こんなときにこそ男がいるのだから
あとは全部任せてなんて──
まあ、そのくらいはやってもらってもいいはずだし
きのうは小雨ちゃんのたくさんの洗濯物も
片付けまで手伝ったそうだし──
それで麗ちゃんには怒られたようだけど。
まあ──
せっかくいるんだから、こういう困ったときにこそ
何かいいところでも見せたなら
さすが我が家の長男だ、
おうちにお兄ちゃんが来てよかったって
みんなも友達に自慢できるんじゃない?
私はそんな、家の中のことを見せびらかすなんてしないけど──
たまに友達に聞かれたら、
べつに!
ふつう!
くらいの返事はしたいもの。
お兄ちゃんは──頼りになるのが普通なんでしょう?
って聞かれるから──
でもさすがにみんなの大好きなお兄ちゃんでも
地球を相手にして日本列島を暑くないように何とかするなんて
今はまだ──なかなかできないみたいだから、
私が頼んだ時にうちわであおいでくれる他に
もっとしてもらわなくっちゃね!
涼しくなるように
怪談を上手に話せるようになって
寝苦しい夜に誘ったらちゃんと来てくれるように
しつけておきたいし──
怖い話の気分じゃないときは
何かこう、面白い話で
気持ちを愉快にさせてくれたり──
気が利くようになったらいいと思うわ。
まったく!
ふがいなくて、手がかかる下僕がいると考えると
どうも、だらだらしている場合でもなさそうな気が
してくるわね。
ぎらぎらした暑い夏は、とうとうこの街にやって来る──
今年も家族で
手を取り合い、助け合って乗り切っていくのよ!
私がいつも下僕を助けてあげているように──いつもご主人様をちゃんと見ていないとだめよ!