『桜の花びら』
ピンク色の枝がなびく
庭のほうから、
裏山から、
ときどきは街に向かう道のほうから──
ついに世界は
降り続く桜の花びらに埋もれようとしている。
あの桜を眺めて
みんなでお昼を食べた日の記憶も
新しいというのに──
どこまでも高く
よく晴れた春の空と
いつか塵になる私たちが生きる大地を
花びらは舞い、
そしてこれからは──
いや待て、お昼の話をしたら少し小腹がすいた気がする。
細かいことを考えるよりも先に
とりあえず用事を済ませて
早く家に戻っておやつにするのがいいだろう。
そう──
用事というのは他でもない。
風に吹かれて散る花びらを
掃除してきれいにしておくことだ。
できない?
きりがない?
そういう難しい仕事こそ──
進んで引き受ければ、
なんということだろう──
日ごろからがんばってお手伝いをしているようなイメージで見てもらえて、
ちょっとサボったときにまあいいかと
思ってもらえる確率も
上がりそうな気がする。
たぶん上がる。
上がるんじゃないかな。
まあ、ちょっと覚悟はしておけ、というわけで
子供のころから、この季節には使い慣れた竹ぼうきを
こう、さっさと
いかにも手際よく仕事をしているふうに動かすのだ。
意外と──
やってるうちに、楽しくなってくることもたまにはあるからな。
しかし今年は
ずいぶん桜の花びらが多いな。
うーん、去年もこうだったかな?
これはどうしても、来年もお前と一緒に桜を見て
比べてみないといけないな!
来年も──
また次の年も。
ずっとだ。
こうしてまた、使い慣れた竹ぼうきを手に
大変だけど私はそうしたいんだ。
そろそろ──少しはきれいになったかな?
ここ数日くらい続けていれば──ほら。
桜の枝に、またまぶしい緑が目立ち始めたな。
この楽しい仕事も、そう長くは続かないというわけだ──儚いことだな。