海晴

『闇の誘惑』
風のない時間に
窓を開けて、
掃除の途中の埃っぽい部屋も
甘い香りと緑色の風に包まれ
空気の入れ替えも完了──
霙ちゃんが余っている服を
おさがりにってみんなに紹介していたのを
見ていた?
合理的なのか面倒くさがりなのか
理由なんてないのか──
どんな季節にも何と合わせてもいい
落ち着いた色──
厚手の服に
体型を隠せるゆったりしたライン。
結局、ほとんど自分で片付けなおしていたみたい。
なんだか霙ちゃんらしくないわね。
片付かないくらいであんなに困ってしまう子じゃないのに。
もちろん掃除はしてほしいけど、
できないことはできない、
塵に帰る時まで──
って言いそうなのに。
今年の春はあの子も何か違うのかな?
たとえば、
せっかくいいお天気が続くのだから
窓を開けて外の子供たちの声が聞こえる部屋に
遊びすぎて疲れた子や
のどが渇いた子や──
特に理由がなくてもここに来た子を歓迎して
たまには春らしい
のどかな時間を過ごしたい気持ちが
ほんの少しあるのかもしれないとか──
そこには、甘いものが届くかもしれないし
今の時期にしか聞こえない
鳥の声や子供の明るい歌が鳴っているのかもしれない。
ふだんあまり
年上のお姉ちゃんの部屋を
訪れない子だって──
何につられてやってくるのか、わからないものね。
ふだんあまり見かけない珍しい行動を
じっくり観察すると、
そういうのが楽しみのお姉ちゃんを
喜ばせることも時々ある──
そうやって面白がっているうちに
あっという間に次の季節がきたりするのだから、
あの困ったような
時々決意に満ちたような顔を
大事にじっくり覚えておかなくては、
申し訳ないような気もしてくるの──
今日もいいお天気で、お掃除がはかどった子もいるみたいね。
わがやは散らかったり──たまに、どこかが過ごしやすくなったりしている。
明日も見逃せないことが起こると思うよ──