氷柱

『ビジネスチャンス』
霙姉様は
私のお姉ちゃんで
それでいて──
何を考えているのか
よくわからない人。
どうして同じきょうだいで
ここまで発想が違うということが
ありえるの?
これではまるで
今はまともな私が
やがていつかは──
いいえ、根拠のない憶測は考えないようにしましょう。
霙姉様は急に思い立って
部屋の掃除を始めたわ。
本当に部屋を片付けたいのなら
いらないものから捨てていけばいいのに
あまりそういう様子はない。
変ね?
まるでもうすぐ部屋に物を置く必要があって
場所を空けているとでもいうような、
あるいは
バレンタインのチョコレート作りがうまくいかなくて
気分転換をしている……
別に、私には心当たりなんてまるでないけど
そういうのもありえる範囲の話ということでね。
それともこれは
まさか!
何も考えていないだけかもしれない──
ともかく、なにやら思いついたことがあるとかで
部屋にある本をいちいち
リストアップしてパソコンに打ち込んでいるの。
どこに本を置くかを決めて
データベース化しておくことで
部屋の検索性を高め、
見つけやすいようにする。
というアイデアを実践しようとしているらしいの。
これって──
私、わかっちゃった。
見つけようとした本が
どこを探しても出てこないのね……
たまには霙姉様の気持ちがわかることもあるみたいだわ。
そして、部屋をコンピュータで管理するという
斬新な方法が成功すれば
きっと未来はこの方法がスタンダードになり
部屋掃除に悩まされる時間から人類はようやく解放され
すてきなアイデアで一儲けくらいはできる可能性もあると
ハイになっている。
そうね──
データ通りの場所に
読んだ本を戻せるほど几帳面な人なら
そもそも部屋掃除に悩まされないと思うけどね。
おそらくこういうのは指定の場所に本を並べる労力をかけられる
図書館だとか漫画喫茶だとかで
すでに実用されていそうな気もしないでもないけど
まあ部屋の掃除に熱心なのは感心だから
もう少しの間はモチベーションが保たれて
その姿が子供たちのお手本になってくれるといいわね。
ところで下僕の部屋は
物を置く準備は大丈夫?
いえ、私は何も──
贈る予定は今のところ全然ないけど
なんだか蛍ちゃんがうきうきで
炊飯器を前に腕まくりで張り切っていたのは、
あれは──
どうも説明しにくいものだから
あとで様子を見に行ってみたらいいわ。
まあ、あなたは部屋を片付けるときは
変なことを考えずに
頼りになるご主人様を呼ぶという手もあると覚えておくことね。