夕凪

『本当に?』
みんなが言ってる。
わいわい
そわそわ、
何かいいことがあって
聞いてもらいたがっているような顔で
伝えるのは──
やっと曇り空だらけの
お天気は終わり、
遊んでいるところに降ってくるいじわるな雨も
乾かない洗濯物も
跳ね上げる泥水もかびっぽいのも
全部まとめて
夏が吹き飛ばして──
じめじめすることなんてもうない、
遊んでいるのを邪魔されることもない、
悲しいこともつらいことも大変だったことも
全部まとめて雨雲に乗って過ぎ去り、
これからは明るい日差しと
なんだかうれしい気分と
みんなで遊べるのと
こんなにいいことがあったって
聞いてもらいたいばっかりの日々が
いつまでもいつまでも
ずっと変わらずに続くという。
本当かな?
夕凪が見に行ってみよう!
夕凪だったら、まだ重たい雨雲が残っていて
みんなが悲しんでも
ぱーっとマホウの杖でいいお天気にすることが
できるかもしれないし、
できなくても夕凪ならわりと雨くらい気にせず
楽しくできると見せてあげられるかもしれない!
これは、どうしても夕凪が
出て行って確かめなくっちゃ。
大事な家族みんなの笑顔のために──
そして、楽しくなるように
玄関の扉に勢い余ってぶつかるくらいにして
飛び出して行くのだ!
あっ!
あっつい!
あ、これは夏!
もう──誰が見ても夏!
もしも季節を知らない
遠い星からやってきた宇宙人がいたって、
わがやのお庭を見たら一目でわかる。
そうか、これは確かに夏だ。
こどもも
おとなも──
世界で最初の人間だって、
遠い未来の生き物だって、
そこらへんにいる普通の人だって──
夕凪が手を引っ張って来たら、もうまちがいない。
ああこれは
夏だと知る──
みんなが言うわけだ──
でも、夕凪はまだちっちゃなマホウ使いだから
本当にそうなのかわからないな!
お兄ちゃんに聞いて確かめてみなくっちゃ!
というか、お兄ちゃんにも
見てもらいたいな。
おーい!
夕凪だよ!
夕凪が──
お兄ちゃんに、いっぱい聞いてもらいたいことがあるって
言ってるよ!
見てもらいたいものがあるって言ってるよ。
そして──お兄ちゃんの手を引っ張っていくよ。
だから、すぐに教えてね。
おうちのお庭で特別なことが起こっていると、
なんだかとっても
いいことがありそうな気がするほどに晴れた
暑い夏だ、
お兄ちゃんもそんな気がするって──
いつだって夕凪と同じ気持ちだって、いつも言ってほしいの!
いいでしょ?