夕凪

『マスカレード』
今夜はマホウの夜!
なぜかというと
夕凪はとつぜんピーンときて
そんな気がしたから。
だから、今にも変身できそうな猫の帽子をかぶって
霙お姉ちゃんに
マントかしてー!
ってお願いに行ったの。
まじめな顔で聞いていた霙お姉ちゃんは
そうか、マホウだったのか。
言われてみればそわそわするから
私もなんだかそんな気がしてきた。
だって!
やっぱりそうなんだ!
黒いマントで変身できるのか。
前からそんな日が来るような気がしていた……
なんだって!
でしょー!?
月から降り注ぐパワーだよ。
かもしれないし
不思議な星座がいたずらしたのかもしれないよ。
かもしれない!
可能性は無限大だって
みんなは言う。
夕凪もそう思う!
そして霙お姉ちゃんもそんな気がしたから
黒いマントをたなびかせる
むかしなつかしの味がするレトロなスタイルのファッションで
おとなっぽく
和風のお店に
お菓子を買いにお出かけしちゃったよ!
ひとりで。
なんでー!?
帰ってきてから教えてくれたけど
その気になったら
なんだかむずむず
抵抗も何も気にしない真空中で加速するみたいに
止まらなくなってしまうんだって。
果てしなく広い宇宙の暗黒と
同じ色のあんこ。
きんつば
これが夕凪の感じた
マジカルの正体……?
吹雪ちゃんは、カロリーが高すぎないでしょうかって聞いてた。
あんまり食べたら必要以上に発熱するらしいの。
お肉もつきそうだって。
しかし深まりゆく秋を迎える時期に
体が防寒の準備を整えるのは当然……
みんな言うことが難しすぎるよー!
いろいろじゅもんはあるけれど
もしかしたら夕凪の知らない難しいじゅもんも
あるかも……
あったらこまるけど……
とにかく
マホウがかなうときっていうのは
これかなあ?
じゃなくて
すごい!
これだ!
びりびりエネルギー
わかりすぎ!
他のどこにも
こんなにかわいい女の子いないんじゃない!?
さすがゆーな!
……
だよ!
きんつばかあ……
ひとくちたべて
あまっ!?
って
星花ちゃんのにこにこほっぺたについてたのも
舐めてしまおうと近づいて
途中で気づかれて逃げられたけど!
惜しかったあ。
夕凪、後ろから足音忍ばせて近づくのは得意なんだけど
ちっちゃいころからくすくす笑って練習して
ぜったい音を立ててないはずなのに
いつも途中で気づかれるんだよね。
なんで?
くろねこ忍び足のマホウも
なぞのカロリーエネルギーをうばいとるマホウも
うまくいかなかったことだし
たぶん愛嬌がアップしているはず。
と思うんだけど、どう?
ほらほら
上から下までよく見たら
夕凪、昨日と変わってる?
そだってる?
鏡で探しても映らない魅力を
お兄ちゃんの優しい目が
するどくびびっと全てを見抜いて
不思議でファンシーな夜の夕凪のマスク越しに
まだ他の誰も知らない素顔を見つけることができたら
それはもう全部お兄ちゃんのもの!
星花ちゃんもまだ見たことがない。
吹雪ちゃんも
お友達も誰もちっとも
夕凪のことをなーんにも知らないまま
お兄ちゃんにいちばんに
真夜中に夕凪を奪ってひとりじめにする招待状をあげます!
って言ってたら
あーっ!
思い出した!
今月ハロウィンじゃない!?
ホタお姉ちゃん手作りのかわいい服がいっぱい着れてうれしいという
あのハロウィンじゃん!
それでなんか
あふれる魔力を感じたのか……
かな?
かぼちゃのランタンが
今夜も街のどこかでぴかぴかして
ひそひそ誘惑のささやきで子供を呼んでいる。
つかまえてしまうぞ
仲間にするぞ
あたたかい命を奪おうと
枯れ枝みたいな手を伸ばして
ひんやり冷たい気配が頬に触れ……
きゃー!
っておどろかせたい!
夕凪、もっと忍び寄るわざを磨かないと
なかなかりっぱなおばけになれません。
期限は今月中!
ハロウィンまでにかわいいおばけが生まれるように
お兄ちゃんもしばらくの間は
いつでも油断なく背後に気をつけて
夕凪のスキルアップに協力してください!