立夏

『こいぬ』
自分のしっぽを間違えて
追いかけるこいぬ。
あれは本当に
間違えて追いかけているのだろうか?
理由は知らないけど──
わからないけど。
説明できないけど
しっぽを追いかけるものだと思ったら、
今どうしても
それが必要な時があるのだとしたら!
今日も暖かい。
風が吹いたって、
凍えるような季節と比べたら
なんでもない。
ボールを追いかけ、
みんなで走って
日が暮れかけても遊んでいる間は
誰も気が付かないようにして──
追いかけているのは
ボールなのか?
家族のみんななのか?
さっきより早く走れる気がしている
ついにやってきたうれしい未来を行く
自分の背中なのか──
なんにもわからない。
だけどもう少し走っていたくて、
もしも実は全然
早く走れるなんてことも
いつまでも疲れないで
追いかけっこばかりしていられるなんてことが
ないとしても──
なんにもうまくいかなくても、
でも体だけが知っている。
立夏の頭ではないところでわかっている──
よくわからないけど、
もう少し、
もっと長く
理由を置き去りにして
走っていなくちゃあ──って!
春のせいにしてもいいし
みんながいてくれるのが
楽しいのでもいいから──
立夏はなぜか
まだまだ遊んでいたい気がして、
家に入るのが遅れて
お風呂で汗と埃を流している間に
ご飯が少し冷めて
氷柱ちゃんが怒っていた。
心配したのよ──
遊びほうけて
夢中になるあまり
いつまでも帰ってこないんじゃないかって。
氷柱ちゃんは面白いな!
そんなことあるわけないのにね。
心配してくれる氷柱ちゃんがいるおうちなら──
立夏は必ず戻って来るというのに!
自分のしっぽをおいかけて
くるくる──
理由を知らないまま回る生き物。
日が暮れても、
心配をかけてしまっても
よろこぶ足が止まらないのは
誰かのせいでも何かのせいでも、
誰かが答えを知っているわけでもないの。