海晴

『スタンバイ』
ちょっとしたきっかけで
すぐに失われてしまいそうで
いつも大事にするほど怖くなる
私たちの毎日。
どんなことがあったとしても
きっと後から取り戻せないものなんて
絶対にひとつもないんだから
自分の気持ちだけを見つめて
私は愛する人と過ごす時間を
信じ続ければいいだけと
そう思っても
でも、ときどきくじけて勇気が出なくなる
くり返しを続けている
大人になるまでは続きそうな
今のところはまだ波乱もない普通の人生。
あまり特別なたいしたことがない
平凡な少女の生活に、
いえ、そろそろ少女はあつかましいかもしれないけど
とにかく私たちの目の前に
何か大騒ぎが起こらないではいられない
そう、
時はゴールデンウィーク
嵐の予感を運ぶ
大型連休の日々がやって来るの。
街でこいのぼりが泳ぐのを眺めるたびに
のどかだな、
元気に泳いで面白そうね、
などと先日まではのんきな感想だったけれど
こちらの心境の変化に合わせて
あのひごいもまごいの子たちも吹きすさぶ風に立ち向かって
やがて鯉は飛翔して願いを叶え
龍となって飛び立つのね!
みたいに勝手に胸を熱くさせている。
まあ飛んで行っちゃったら困るけど。
というわけでそろそろみんなで迎える連休。
どこかに遠出をする予定はないけれど
近くで何か楽しそうなことがあったら
ちょっとよそ行きに着替えて出かけてみるのもいいかもね、
くらいの話をしていたら
旬の話題にかけてはなかなかの立夏ちゃんが情報を集め
それをかしこい氷柱ちゃんが何かとおだてられたり
おやつで釣られたりしながら知識を限りを尽くして分析し
きっと楽しい
ちょっと特別なゴールデンウィークの日を届けるのだと張り切っているわ。
な、なんて
たのもしい!
私が年長として責任を持って予定を立てていた頃なんて
霙ちゃんが一体どこから拾ってくるのかよくわからない元手の数々から
宇宙のロマンのプラネタリウムとか
知識の宝庫の博物館だとか
本屋さんのフェアなどなど
かなり地味な選択肢を感じつつ
どうにかそれなりの思い出の日々をと悪戦苦闘して。
とりあえず疲れて帰ってきた後の
やっぱり家が一番だという醍醐味だけは確保できたのも
もう昔の出来事。
今となってはすっかり任せられるし
氷柱ちゃんに文句を言える子もあんまりいないし
ともかく、がんばって家族旅行の計画を練っているみたいだから
私が特に引っ張っていかなくてもなんとかなるでしょ。
でもまあ一応。
霙ちゃんが今も集めてくる
謎めいた情報たちは
今年もいくつかキープしてあるのよ。
ミステリアスな連休になるかそれを回避できるかは
氷柱ちゃんたちと
それを応援しているみんなの声で決まるわね。
がんばってね、立夏ちゃん、氷柱ちゃん。
その細い肩とエネルギッシュに熱を放つ背中に
家族の運命は託されているの!
もう引退してお任せしたような立場だから
とっても気楽におねだりもできるのはいいわね。
氷柱ちゃんも後進が育つ頃には
こんなふうにちょっと寂しくなったりもするのかな?