氷柱

『ありがとう』
澄み切った青い空を見上げて
吸い込んだ冷たい息で
体の中からまっさらに
洗われていくような──
こんな冷たい冬の日に
身を寄せ合って
私たちは年越しの日を迎えました。
年に一度くらい、
こんな日だけは
少しくらいのことには目くじらを立てずに
ちっとも作法がなっていなくても
礼儀正しくなくても、
家族で過ごす大晦日だもんね。
いや、別に私も
そんなに普段から怒ってばかりいるわけじゃないけど
でもまあ
それでも今日は特別な気がするというか──
思えば、もう一年が過ぎて行ったのね。
あっという間だったような
ずいぶんいろんなことが
あまりにもたくさん
あったような──
別に、楽しいことばっかりあったわけじゃなくて
たまに不機嫌になったりは
したかもしれないけど──
過ぎて行った日々を思うと、
ずいぶんいろんな思いをさせられたな!
なんて気がする一方で、
なんだかいつもうれしがって
笑って過ごしたようでもある──
そして、思い返すと
楽しすぎたせいで
あんまりいろんな人といて
家族といて
普通に過ごしていたのが
まぶしいのか
なぜか涙がこぼれる。
別に過ぎ去っていくことを惜しむ気持ちばかりじゃないのに、
さみしくなんてないのに
後悔の一つもないとは言わないけど
まあ、よくやったほうじゃないのかなって
澄み切った胸の奥に
ささやかに残り続ける
自分でもよくわからないもの。
泣けてしまうのに少し暖かいもの──
そんな気持ちはない?
ないの?
別にいいけど。
私はあるわ──
まあ、別に年の暮れに限ったことじゃないか。
いつか──
みんなとこんなふうに、
忘れられない時間だったのかなって思う
変な気持ちを
ちゃんと言葉にして伝えられる
立派な大人になれるといいわね。
私だけじゃなくて──
にぎやかでうるさくて
いつも伝えたい気持ちでいっぱいらしい私の家族もついでに
そうなれたら。
なれないかもしれないけど。
ま、明日になれば新しい年。
寒さの厳しいこの夜くらいは
希望を持たないと
いつ夢を語るのかって感じよね。
あなたも、今年もまあ
氷柱と一緒に過ごす下僕として
よくやったほうなんじゃないの。
おつかれさま。
じゃあ──
もうあと少ししたら
新年のあいさつね。
まだ言いたいことは残っている気がするけど、
いろんな忘れられない思い出を残して年は明けていく。
そうしたら、少しは希望に満ちた新しい年。
またいろんな毎日がやって来る。
あなたも私も──きっとこれからも大変そうよ。
来年もよろしく。
今年もよくがんばったわね、私の下僕。