氷柱

『シークレット』
いろいろあったけど
終わってみれば
変わり映えのしない一年だったわね。
結局また最後まで
振り回されてばっかり。
無謀にも人前で歌おうと決心した立夏ちゃんは
そんな必要もないのに出番が近づくと
無駄に緊張していたみたいで
どうせ大したこともできないんだから
やるだけやって帰ってきなさいと
一つだけあげたのどあめ。
背中を叩いて送り出して
まあ、戻ってきたら
何か食べ物を与えればすぐに元気になるだろうと
見つめたステージは
歌が始まってしまえば
え?
夢?
なーんだ、私眠ってるのね。
ていうかのどあめすごいな!
ってなったわよ。
まさか今年は合唱部の友達ができて
下僕とカラオケに行って練習に付き合ってもらったとか
だから一年の最後の日には成長したところを
なんとしても見てもらいたかったとか
氷柱ちゃんも応援してくれたとか
そんなの知らないっての。
たまたまだっつーの。
で。
行ったの?
カラオケ。
まあ下僕も根気があるというか
その精神力を別のことに使っていれば
なんでも一人前のことも成し遂げられたのにっていうか
できないから下僕なんだけど。
はー、一年の最後に
びっくりしすぎてぱたっと心臓が止まらなくてよかった。
破壊力が強いのは覚悟していたけど
まさか立夏の歌のせいで年を越せなかったとか
いや、別の意味でおどろいたせいだけど
そんなことになったら死んでも死に切れないところだったわ。
ふう。
とにかくどうにか
来年まで生きていられそうな大晦日
これも誰のおかげでもなく
普段から積み重ねている自身の努力の賜物ね。
本当に……
終わってしまうんだ。
なんにもできなかった
進んでいるのかいないのか全然わからないような一年。
思うような結果も出ずに
新しい変化もなく
もうすぐあと数時間で年が変わるこの時間を
とりあえず──
にぎやかな声に囲まれて過ごしてる。
みんなと一緒に。
また来年もこんなふうにしているのかなと思いながら。
私がこの家族にしてあげられることは
結局今年もひとつも増えなかったけど
こうしていられるなら
まあいいかな、とか。
ふん。
それにしてもこの年越しそばは
七味が効きすぎなんじゃないの。
だってなぜか、なんだかこれじゃあ
寂しいのか何なのか
泣いてるみたいで変じゃないの。
ほら下僕は水を用意する。
まったく。
あの。
今年一年もいろいろあったわね。
いつも下僕が毎日毎日
尻尾を振って心細い顔をしているから
放っておけなかったせいに違いないわ。
また来年もよろしく。
今のは水を取ってもらったことに対する返事であって
今年一年ありがとうとかそんなことは
一言も言ってないから
勘違いしないで。
来年もせいぜい働いて尽くすこと。
下僕が多少は
死ぬ気で奉仕をして
それで、ご主人様のことも忘れないなら
絶対いい一年になるって。
あなたがまだ知らないような秘訣を
特別に今だけ──
年が変わるまで
一緒に過ごしている間だけ。
仕方がないから、教えておいてあげる。