氷柱

『迷惑』
あの──
ほら──
そ、そうだ、確か
もうすぐハロウィンでしょう。
すっかり忘れてたわ!
いま思い出した!
ほんとほんと。
あー、た、たのしみだなーハロウィン。
甘ったるくて困るお菓子──じゃなくて、おいしいお菓子を食べたり
子供っぽい仮装──か、かわいらしいオバケになりきってみたり
恥ずかしい掛け声をして、幼稚な歌や遊びに付き合わなくちゃいけなくて
……
別に──
私だって。
みんなが楽しむ邪魔をしたいわけじゃないわ。
自分が苦手だからとしても
周りのみんなもやめてほしいとは……
そこまでわがままは言えない。
バカ騒ぎをしているなあ、とか
このままでは、こっちもえらいことに巻き込まれてしまうなあ、とあきれる時でも
でも、やっぱり
楽しそうにしているみんなを止めるなんてできない。
ただちょっとだけ
そういう時にも距離をとったりしたほうがいいと思わないでいられて、
ずっと隠しているつもりだった気持ちを
あんまり文句を言わないで聞いてくれる人が
本当にどこかにいるような気持ちが
一瞬だけ浮かんだだけよ!
ばか!
……ふだんさっぱり気の利かない下僕が
あまりに鈍感で、人の気持ちも知らないから
何を言ってしまってもいいような
気の迷いを起こしただけ。
あなただって子供みたいにはしゃぐのが好きなら
他の子たちと同じようにおばかっぽくてゆかいな顔をしたらいいわ。
他のみんなみたいに
誰かが愚痴をこぼすような筋の通らない不満を聞かされたら
ちょっとくらいつまらなそうな顔をしてもいいんだから。
ふん、まあ、なんでもいいわ。
下僕もハロウィンが楽しみだと思ったら好きにすればいいじゃない。
私は、私はね──
誰にも合わせる顔がない、なんて──そんなことを言うつもりはないけれど。
どうやらユキは一緒がいいみたいで。
すてきなお兄ちゃんも一緒に!
私がいたらいいと考えているみたいだったから。
毎年、この日を楽しく過ごせたらいいと思っているみたいだから。
おかしいわよね。
楽しい日なんて毎日過ごしてるみたいにいつも笑っているのに。
つらいことがあっても、病気でちょっと苦しそうにしていても
お兄ちゃんがいてくれるからってうれしそうに話すの。
それって、あんまりイベントもパーティーもいらないみたいだけどな。
だって、なんだかまるで毎日が──なんだか──
ま、私もたまにはまわりに合わせてもかまわないか、みたいな気分のときもあるのよ。
仮装すればおばけも寄ってこないっていうし、ちょうどいいわ。
いい子にしてみんなのお手本になればお菓子もたくさんもらえるの。
そう、私がいい子にしていたらすごいのよ。
たまに下僕がよいことをしたごほうびのためにとっておくには充分なお菓子になるわね。
だから……今回は私が折れてあげてもいいわっ!
それだけ!
じゃあ──楽しいハロウィンになるといいわね。