星花

『長く伸びる影を追いかけて』
季節はもう冬。
暗くなるのが早い時期。
寒くなるのも──
日の落ちた帰り道が寂しいのも
冬だからしょうがない。
夕方になって長く
ずっと遠くまで私たちよりもあわてて
伸びていく影と
一緒に歩いていくように──
急ぎ足の帰り道です。
あっちに向かう影は
星花よりもずっと早く
家に帰りたがっているみたいに
ぐんぐん伸びていく。
角を曲がると、
まだもう少し遊んでいたくて
沈む太陽と相談しているみたいに
あらぬ方へと駆けていく──
あっちの方には
まだ行ったことがない気がして
もうちょっと色んなものを見たいって言ってる──
いつもそそっかしくて
よく怒られては反省している
元気な子供たちみたいに
気まぐれに背伸びをしてゆく──
でも、帰らなきゃ。
おなかがすいたって
星花より急いで伸びる影。
遊んで汗をかいて
お風呂であったまりたいって
北風を避けるみたいにぐんぐん走っていく影。
小さい妹に
絵本を読んであげる約束を
思い出したみたいに
進んでいく影。
だってもう帰る時間なんだもの。
角を曲がると
気まぐれな影がまたひとつ、
次の角でももうひとつ
合流して同じ家路を急ぐ。
影の伸びるほうに向かうのは
星花の家族たちの足音──
そそっかしく
あっちをむいたりこっちを向いたりしながら
晩ごはんのメニューや
家族のみんなと遊ぶいろんな約束をしたことを
ひとつひとつ思い出して
おんなじ方向に向かっていく影。
日が沈む前に
私たちのおうちへ戻ろうと伸びる影は
今日もせわしない。
みんなと並んで、
もう寂しくないような顔をして
もうすぐ──
影に追い越された先の、
角を曲がれば見えてくるおうちが、星花の家族が帰るところです。