綿雪

『このごろ』
窓の外から
見える景色には、
花壇の隅に
子供の置いていったシャベル。
ヒルの顔が付いているのは
さくらちゃんの持ち物なのかしら?
ドアの向こうから
聞こえてくるのは──
寒がりな悲鳴と、
うがい手洗いに急ぐ足音。
今日も家の中はにぎやかで楽しい。
ユキはベッドで
寝ていることが多いから、
あんまり泣いている声や
けんかしている声が聞こえても、
すぐに助けに行ったりできないの。
お庭で転んだ子が見えていても
手を貸して起こしたりできない──
もう少し大きくなるまで
お部屋の中にいて、
みんなが来るのを待っているのが
寒い冬の毎日の過ごし方。
毎年のことなんだから
慣れないといけないの。
大きくなって
体がもう少し良くなるまでなんだから──
ある時、
転んでいる子や
ボールがどこかへ行って
探している子に
駆け寄る人影を見つけた。
遠くに離れた、よく見えない景色。
お姉ちゃんたちかな──
それともあれは
運動ができて
そしてやさしい
ユキのお兄ちゃんなのかもしれません。
泣いているあーちゃんを
すぐに抱っこしてあげようと
ばたばた慌てた足音は
どうも大きな足がやってきたらしい。
見える、
聞こえる──
だから寂しくない。
そういえばときどき、おいしそうなカレーの匂いや
あたたかそうな煮物にまじって
揺れているミルクの気配がするの。
それから、ユキがまだ味を知らない
コーヒーの匂いが届く──
キッチンは、お部屋に近いところにあるの。
みんながいるってわかるんです。
もしも、これから寒さが厳しくなって
お外に出る子がいなかったり
暖房のあるどこかの部屋に
離れていった後でも、
たぶん──キッチンへ足を運ぶ人がいて
いい匂いがして、
みんながそばにいると
わかるのだろう。
お兄ちゃん、いつもあったかくして過ごしてくださいね。
ユキはそんなに
お部屋から出られないけれど、
ずっとみんなが寒い思いをしないように
祈りながら──
いつか、暖かい日にお部屋を出ていくのを待っている。
ユキが行くところは、きっといろんな声がして
優しいお兄ちゃんのことをたくさん知る場所なんだろうな──と思っています。