『幻戯』
家の中の見回りも
ようやく終わった。
日頃から気を付けていたようでも──
注意して観察してみると
倒れそうな場所に置いてあるものは
意外と多くて、
この間より──もう少し大きい地震が来たら
誰かがけがをしていても
おかしくなかったと言える。
片付けたり、固定したりの作業が終わるまで
小さな子たちは邪魔をしないで
いい子で大人しく遊んでくれてよかったな。
ただ、不思議なことがあって
地震の後から出てきたものは
よく遊び相手になってくれたお人形も、
着物も太鼓も何かの用紙も
すっかり消えて見つからないそうだ。
あれが子守をしてくれたから
ずいぶん楽に作業が済んだのだから
感謝をしておきたかったのだけど。
どこからやって来た
何者だったのかは
もう誰にもわからないままになるんだろう。
なにしろ何が起こるかわからない
大きな宇宙の
ほんの一部で起こった出来事だからな。
世の中、そういうことはときどきあるんだ。
たいして気にする必要もない。
でも、わざわざ大家族にやってきたのだから
やがてこの家に生まれる小さい子が
本当にこの騒々しい家族に生まれて大丈夫なのか
心配になって様子を見に来たというのが
ありそうな線だと思うのだがどうだろう?
誰も読めなかった文字も、
あるいは昔のものではなくて──
まだ誰も知らない遠い未来から来た手紙だったのかもしれない。
はたして私たち家族は
目に適ったかな?
まあ、いいことがあるとしたらいずれわかるだろう。
また、ご先祖様が助けてくれたという説も捨てがたいが
お盆にしてもハロウィンにしても
ちょっぴり時期がずれている気がするな──
それとも、家族の人数が多い家系なら
どこかのご先祖様のところで
今くらいの時期に帰ってくるお祭りをする習慣があったのかな。
いつか答えが出るかもしれないし──
みんな細かいことはすぐ忘れてしまうかもしれない。
なにしろ毎日がお祭り騒ぎのようなものだからな。
たとえば、オマエも知っているだろうが、カレーを作る準備には
じゃがいもの皮むきというものがあるだろう。
刃物を扱うから怪我をしないように安全に──
でも、できればおなかいっぱい食べてもらうために
なるべく手早く──
日頃から鍛えた自慢の腕を見せる機会は
いつも多いのだ。
私も味見役ばかりをしていられない日はたくさんある──
ほら、呼んでいる声はおそらく──
地獄でも天国でもなく
キッチンの方から聞こえている気がするぞ。