氷柱

『扉』
てんつく
てんつく
すっとんとん。
地震でできた
すきまから
湧き出るように出るわ出るわ、
いつのものだかわからない
お人形に帯に着物に
太鼓に笛におもちゃの指輪。
どう考えても
物置の奥にこんなに詰め込まれていたなんて
大問題ね!
もう少し大きい地震だったらどうなっていたことか
想像するだけで怖ろしいったらない。
そんな危険をなんとかすべきと
考えたら──
家族のみんなが一つも見たことのないものばかり
ぞくぞくと現れる不思議なんて
ちっともたいしたことなんてないわ。
海晴姉は、古い映画のあらすじで、
地震の小さな裂け目から
悪魔が出てくる地獄につながって
血まみれのおばけがたくさん飛び出す話があると
どこかで聞いたことがあるというけれど──
まったく大人って
ろくでもない知識ばかりがあって
肝心なことは何一つわからないんだから
頼りにならないわ。
どどんどんどん
子供は子供で──
太鼓をたたいて夢中になれば
もう何も考えられないくらいで
一度奏ではじめたら誰にも渡したくない、
不思議に止まらないと
とりつかれたように演奏を続けて面白そう。
別に──
こんな太鼓で何かがあるわけないのにね。
晴れた空が楽器と踊るように揺れる黒雲で
もくもく覆われ始めたのも偶然だし
廊下の角から顔を出して太鼓を狙う夕凪の熱い視線も
夕凪なら別にいつものことだもの!
とんとん──
とん──
夢中になるほどじゃないって
疑うなら下僕も、一度試してみればいいわ。
いつの時代に作られたのか、
どこの誰が器用にしまいこんだのか
見ても触っても推測すらできないけれど
日の下の広場で鳴らすのか暗がりにとどろくものか
聞いたこともない珍しい音が鳴るのは確かよ。
もう少ししたら──貸してあげるから待っててね。