海晴

『暖かな思い出』
ぽかぽか陽気に
うっとりしっぱなし。
日なたにいるだけで
なんだかうれしい
季節はもう春。
こんな時期は
思い出すわね──
あれはかわいい麗ちゃんが
まだ小さくて
目を離せなかったころ。
出かけた旅行先で
たどり着いた小さな駅は
人も少なく
迷子の心配もなさそうで
ずっと気を張りっぱなしの私やママや
たまに頼りになる霙ちゃんが
みんなを集めて
一息ついた
その瞬間──
走り去る電車から手を振る
麗ちゃんの姿が!
駅員さんにあちこち連絡してもらって
なんとかつかまえた
後で聞くと──
ちゃんと旅のしおりには
時刻表の通りに
すぐまた合流できるって
書いてあったでしょう!
って言うけれど
そんなところまで
見てなかったもの!
キミも麗ちゃんががんばって用意してくれる
旅のしおりに
どこか罠が仕掛けられていないか
旅行の時には気を付けてみて!
えっ!?
麗ちゃんの中では
あの大変な出来事が
記憶も定かではない
夢の中の話になっているって!?
まあ、小さい小さい頃の
出来事だったものね──
麗ちゃんはその気になれば
自分の力でどこでも行けて
そして本当は
なんでも実現できてしまう
かしこくて
たくましい子──
たまに泣き虫で
今はみんなに守られていることを
不満に思うこともあるようだけど
またあんなふうに
本当にやりたいことを見つけて
自分の力で旅立って行ってしまう──
そんな時が来るような気がするの。
それはとても
さみしいことで──
だけど何もできないよりは
旅立つ時に
せめてできることを
してあげたい──
もし、その時が来たらのお話。
私たちに覚悟ができているか
わからないし
考えても、お弁当に一杯おいしいものを入れて
もたせてあげるくらいしか
思いつかないけれど
たぶん私たちの準備とは何も関係なく、
麗ちゃんは突き進んで
やりたいことを見つけて
それでいいのだから
私のほうも、心構えくらいはしておかなくちゃね。
今日も家族と過ごす
にぎやかな春の一日。
暖かい光を浴びて
こんなに楽しい毎日を過ごしていると
私はいつも
楽しいことばっかり思い出しているの──