『春眠』
春の日なたで
あーちゃんがうたたねをしている。
海晴姉さまも
目を閉じて
暖かな光を浴びて、
このままでは私も
もうすぐ──
そういえば
この時期には時々夢を見るの。
定期的にレールのきしむ
かすかな振動、
線路を走る
車両に揺られ──
そこは
他に誰もいない
貸し切り状態。
何両編成の
どこに乗ったのか、
そもそも何という路線なのか
何も知らないまま
どこまでも続く
春の景色の中を
ガタンゴトン
──
都会生まれの
まだ一人で旅をするのも許されない子供。
そんなぜいたくな経験は
今まで一度だって
あるはずがないのに
どうしてか
夢の中の私は
やっとこの時が来たんだ、
子供の時から
ずっと──
こんなふうに過ごすのは
わかっていたんだって
そんな気分になっている。
今、目を閉じたら
同じ夢を見るのかしら?
本当にあったことのようで
どこにもない──
でも──
それでも
夢の中の世界にいる私は
これでいいって
ちゃーんとわかってるんだって
そんな顔をして
すましている──
このまま春の穏やかな陽気に
抵抗できなかったら
きっと
もうすぐなの──