真璃

『はしれ! 夕凪ちゃん』
暗い道も
ぐうぐう鳴るおなかも
夕凪ちゃんの足を止めることはできない。
あやしいまじない──
科学で解明できない謎でさえ
まっすぐ進む夕凪ちゃんに追いつけない。
はしれ!
ばんごはんに遅れないように。
いそげ!
大好きな人とたくさん
おうちで過ごすために。
今日は、夕凪ちゃんとみんなで
公園に遊びに行ったの。
よく晴れた日の子供たちは
本能的に──
一番楽しく遊べる場所を知っている。
クリスマスムードの
街並みよりも、
暖かないい香りがする
冬の商店街よりも。
坂道をのぼって
お日様に近いあの公園へ
まっすぐに駆け出していく。
あとからみんなが
追いついてくる前に、
一番乗りの誇らしい笑顔で
待っていなくちゃ!
それはもちろん
冷たい風の気配を感じた夕暮れだって
変わらない。
にぎやかな夜が
待っている家へ
いますぐ、
一歩も迷わないで!
たとえ
上着を置き忘れていたって。
後になって
水筒を忘れてきたことに気が付いたって。
帰り道の途中で
なぜか靴下をどこかに置き忘れている自分の足を
見つけたとしても。
競争するみたいに一番すてきな
みんなのおうちへ向かっているなら
そうしたらもう
走り抜けることしか
わからない──
不思議な夜の術が
かわいい家族の子供たちの帰りを遅らせていたそうなの。
誰だってもうちょっと
みんなと遊んでいたい。
たとえ夜の闇だってきっと同じ気持ちの
ときもある──
でも、夕凪ちゃんには全然通用しなかったわね。
早く帰って
遊びたい!
という気持ちが
世界中の誰よりも強くたくましく、
迷いがない──
帰ってから、こぜにいれが見つからなかったときは
まさか!
こぜにいれまで!
とあわてていたけれど
無事におしりのポケットから出てきてよかったわね。
元気いっぱいでわんぱくな子を助けてくれた
今日のMVPはおしりのポケットということになる。
フェルゼンもどうか
暗くなる前に帰ること、
ポケットに穴が開いていないかということには注意して
素敵な冬の日々を過ごしてね!