『名無しの魔女の話』
あなたはもう結末を知っている──
お気に入りのおもちゃを選び抜いた
子供たちの期待と、
そして壮大な冬ごもりの予感が
わりと早く変わっていくその先を。
毎年のことよ!
みんなは、なんでも楽しいことを見つけて
すぐに強引に手を引っ張りだす
夕凪ちゃんではないので、
どんな楽しみももって三日。
長い冬の到来を──
その時に初めて実感するの。
それに、いくら
フェルゼンがいつも一緒だからって
時には日差しのある街を和やかに歩き、
また別の時には
並んだまま同じ景色を眺めて
雄大な自然に見とれていたい──
たとえ無理だとしたって、
そうしたい気持ちになることは
誰にだってあるわ。
ただでさえマリーは
前世はゴージャスなアントワネット。
一番夢見た恋の願いだけは叶わず、
今こうして新たな挑戦を続けているのだけれど、
だいたいできないことはそんなにない
豪勢な生活を過ごした記憶が
うっすらとあるような気もするので──
雪景色が
きれいでも!
美しい日本に
生まれても!
マリーは──
フェルゼンをひとりじめしたいし、
一緒に遊びに行きたいわ!
あーあ──寒い季節っていじわるね。
マリーはこの世界で経験できる全部を
フェルゼンと一緒に知りたいのに──
冬の準備に
いくらあっても足りないお絵描き帳は
誰かが置き忘れた本棚の隙間やいろんなところから集めて
多めにそろえておいて。
なぞなぞの本だって
寒い時にはおる服だって、
少しおもちを食べ過ぎた時を見越して
大きめのサイズまで──
王妃の仕事はいつだって忙しい。
もう少し、大きくなったら
人手を頼んだりして
みんなに理解してもらえるのかもしれないけれど──
小さな王妃様の今だけは
フェルゼンが頼りなの!
まずは、タンスから出てきた去年の冬服が
少し大きくなったマリーにまだ似合うか、
はたまた新調すべきか
一緒に考えるところから
手伝ってもらいたいの──
今いそがしい?
家中がてんやわんやの
冬の準備の日々、
革命のような暮らしの中で
二人がまた出会えた運命を
ふと思い出すことがあったら、
またいつでも
一緒に過ごしましょ。
退屈そうなマリーを助けてね──