真璃

『たいこたたき』
とんとん
たんとんとん
ゆかいな音が聞こえてくるのはどこから?
蛍お姉ちゃまのまないたの音かしら。
夕凪ちゃんが新しくひらめいたおもちゃを組み立てているの?
それともまさか
おばけ!?
フェルゼンに守ってもらわなくては!
腕の中に抱きしめてもらわないといけないわ。
なんていうのはいたずらのおはなしで
こんなことでだましてフェルゼンを独り占めしてしまったらみんなに怒られるから
ないしょのはなしね!
実はマリーの手元にあるのは
おもちゃのたいこ。
ばちでたたいたら
いい音がする
かわいいたいこ。
まるい真ん中を叩いたら
ぽん、ぽん。
はしっこだと
たかたん
ととん、とん。
ひそかにコツをつかんで
ふちをたたいてみせたら
かちかち
きんきん
たたたっ
こんな音まで出るって
ちょっとおもしろいでしょ?
見た目は子供向けみたいでも
こっちが工夫してあげたら
あんがいいい声を聞かせてくれるのよ。
とっても寒くなってしまった日、
お外も風がびゅうびゅう強いから
小さいみんなは吹き飛ばされないようにかくれて
お部屋で身を寄せ合っているの。
だから今日のマリーたちのお友達は
使い慣れたおもちゃ
わりと遊んだおもちゃ
わがやのベテランのおもちゃ。
このたいこも
ずいぶん叩いたわね──
真ん中なんて色が変わっているし。
はしっこも
ふちもきれいなのに……
まじまじ見ていたら。
その時には
マリーの手元のばちは
勝手に動いていたの!
こんな音が出るのに
かなり使い古しになるまで
誰も気付かなかったなんて。
ついに抜け道を見つけてここまで最初にたどりついた
マリーが一等賞ね!
ぽこぽこ
たんとん
すると
ほら──
耳を澄ますと、聞こえない?
ばさばさ
ふわふわ
……
好きな色のばちを見つけて
面白そうなマリーの遊びをまねて
どうしても動いてしまう小さい子たちのしわざだわ!
たまたま見つけた大人向けの雑誌。
まるめたざぶとん。
いい音がするとかしないとか
リズムとか知らないで
いい気持ちで
好きなようにしてみたら
だいたい、楽しいことって
そんなふうに何も考えないではじまるのよね!
マリーとしたことがいい音を出すことにこだわってしまったなんて……
あんなにえがおの妹たちには負けたのね。
別に勝負も何もしていないけど
なんとなく敗北感があるわ!
上手になったら
あの子たちも驚いてくれる?
今より立派で高級なたいこだったらいいのかしら。
でも高貴なのはマリーだから
どんな太鼓も負けてしまう気がするな。
やっぱりマリーのたいこは
お値段とか豪華な機能より
一番のお気に入りを選んで
みんなと遊べる
だいすきなものでないと
気分が乗らないもの。
このたいこは
フェルゼンも良く叩いて
みんなと遊んであげているちいさなたいこかもしれないわ。
それよ!
マリーとフェルゼンと
二人の大事なたいこにしましょう!
かわいい妹と遊んであげられて
ちょっと上手になったり
たまに下手だったりしながら
結ばれた二人の手を渡っていくたいこ。
いいのよ。
特別変わった音がしなくても。
マリーがそんな気がしたんだから
こういうのをロマンティックっていうの。