『予感』
くんくん
……
わかるわ。
私、この香りを知っている。
小麦が焼けるおいしそうな匂い、
おなかがすいてくる温かさ。
どこか優しく懐かしく
鼻孔をくすぐるものの気配──
そう、すなわち
焼きたてのパンの匂いね!
でも、いったいどこから?
キッチンではまだご飯の支度もない、
いつものにぎやかな声も今はお休みらしいの。
ふふ。
なんちゃって。
もちろんこれは
おみやげがおうちの中に届き、
みんなの歓声とともに
日の当たる時を待っているのよ。
いや、本当に日に当たったら痛みやすくていけないけど。
冗談はともかく
今日のおやつは
もう決まったようなものと言っていいわ。
たまに──あることはあるのよね。
日頃珍しい
ゴージャスなお土産が
この家にも。
おやつの時間ってきょうだいが多いと
すぐ取り合いになり、
上の子はどうしても譲る場面が多くなりがち。
大家族らしい
私たちの見慣れた日常ね。
でもちょっと豪華な品が
お皿に並ぶ日、
そんなときどきしかない特別な日は
やっぱり普段お手伝いや
おうちのお仕事を頑張っている子から
選択権を得るのが
まあ、これも平等の形と言って構わないわね。
問題はつい最近の
言うまでもない誰かが担当した
ぴっかぴかのお風呂掃除を
見ている人がいたかということなの。
でも、下心でお手伝いはするものではないけど!
あ、何かお掃除やお片付けの手が足りていないか
急に気になってきた──
そわそわ。
あなたも突然大掃除を始める予定ができて
それでがんばってお手伝いした子を
大声で褒めてあげたい瞬間が
通り魔のようにやってきたりしないかしら?
ちょうど私の手が空いているんだけど──