海晴

『アレンジレシピ』
今日も立夏ちゃんが
ほくほくしたお顔で帰ってきたわね!
ただよう甘い焼き芋の香り……
これは私も覚えがあるわ。
学校帰りの
北風吹く裏通りで
生徒会の先輩からこっそりと打ち明けられた
その場所は、
なんと知る人ぞ知る
焼き芋の名店!
懐かしいなあ。
小腹をすかせた学生たちの御用達、
昔から語り伝えられる歴史あるお店だというわ。
私が直接伝えたのは
ほんのわずかな選ばれし生徒だったというのに
いったいどこから伝え聞いて
立夏ちゃんはたどり着いたのだろう!?
あ、それともあれかな。
最近名を聞く
通学路のパン屋さんは──
神業のように中高生の胃袋をつかむ
見事なお店作りで
たちまち人気を集めたそう。
聞いた話では確か
秋限定メニューから昇格した
ほかほか焼き芋を使う人気の品があるとか。
立夏ちゃんなら話題に乗り遅れるわけがないもの!
そっちかもしれないわね。
学生の帰り道にはいつも
誘惑がいっぱい。
たとえお姉さんが卒業しても
青春時代まっさかりの乙女たちは
変わらない景色が続いているのかもしれないわ。
ううん、それとも
立夏ちゃんのほのかにりんご色に染まった表情は
あるいはもしかして!
暗くなるのが早い時期、
心配して迎えに出たオニーチャンと
おいしいものを手に帰り道を歩けた
夢のような時間が──
一番思い出に残るのかも!
世界中の夢見る少女たちの中で
ただ一人、
世界一かっこいいお兄ちゃんに迎えに来てもらえて
同じおすすめメニューを手に並べる
中学一年生の女の子。
よかったね!
立夏ちゃん!
ところで寒い時期、
ほっと一息温まる名店の情報と言えば
世界中の誰よりも
情報に敏感なお天気お姉さんのところに入ってくるというのは
もう常識だよね。
ふんふん。
聞こえる……心の声が。
すぐ近くでとても愛しい男の子の声で
海晴お姉ちゃんと放課後デートしたいって言ってるのがわかる……
これも敏感なお天気お姉さんの力ね!
じゃ、明日は空けておいてね。
絶対損はさせないんだから!