『掃除機のコードとわたし』
ころころ、すいすい
タイヤが回り──
掃除機は家中のどこへでも駆け巡る。
ほこりを探し
塵を追いかけ
時には砂のついた足跡を追いかけながら
羽が生えたように自由に
はしるはしるはしる──
行けないところなんて一つもない勇敢な掃除機が
今日も、春先の風が吹きこむ廊下をきれいにする。
だけどひとつだけ──
お兄ちゃんは掃除機の弱点を知っていますか?
それはコードが届くところまでしか
進めないということ。
手が届く目の前にごみが落ちていると知りながら
コンセントまで引き返さなければいけない悲しみ──
全ての掃除機が知っているはずです。
それにコードには
小さな子たちが暴れるおうちの中で
さらに行動範囲を制限されがちな場合もあるの。
はねておどって飛び回る、
いくら掃除機でも子供たちほど陽気にはしゃぐことなんて
できはしないの。
コードの届く長さを見つめながら
逃げ回ることしかできない宿命です。
ところが最近は
掃除機の音を発見すると
子供たちが近寄ってくる理由──
コードの長さを確認し
掃除機の先が届かないと見るや
みんなでコンセントの場所を調べては
年上の子が危なくないように運んできてくれるの。
そして掃除が順調なときは
自分もやってみたくて取り合いをはじめたり──
みんなが今日も元気で
お手伝いをしようとしてくれるのが
ホタはとってもうれしい──
少しだけ騒がしすぎるくらいのことは吹き飛んでしまいます!
だけどやっぱり
掃除機は今日もひっぱりだこだから
蛍もそろそろ氷柱ちゃんの発掘したサイクロン掃除機に
慣れなければいけない時が──
とうとうやってきたような気がするの。
しかも新しい掃除機は今どきのコードレス。
何もかも新しいことだらけで
ホタに使いこなせるかどうか──
でも、怖気づくばかりでははじまらないですから。
春を迎えて新しいことを知る子がたくさんいるもの。
まだ見ぬ学年に、
手に取ったことのない一冊に、
初めて花壇に植える種に、
新たなダイヤを描く時刻表にだって
おっかなびっくり立ち向かう子たちを見ていると
私が負けるわけにはいかないと
めらめら元気をもらい続けています。
新生活に向かっていく大事な家族みんなのところに
喜びの春を運ぶ風を
くまなく届けてあげられるように──
ほこりごときに弱音を吐く蛍ではありません!
いつもの見慣れたコードはないけれど
愛情も真心も何一つ変わらない掃除を続けて
ほこりひとつも見逃さない鷹の目が駆け抜けます──