『追憶』
懐かしいあの
かつての夏の日。
家族がそろうテーブルの
私の席の周りには
妹たちが流れる汗も気にせずに集まり
私の手元を追いかけるように
目を輝かせていたものだ。
人数が多い姉妹の上から二番目、
かき氷のハンドルを回すなら
子供の時から任され続けて慣れたものだから
できなくはない。
やればできる、という言葉を実感する場面と言えるだろう。
言葉巧みに料理の一環と認めてもらい
キッチンで無謀な仕事を任されるのを避けることもできた。
楽しい食卓を作る際に
リスクはそんなに多く必要ではないとする方向の考え方だな。
やらされるとしても
そうめんをゆでるなど複雑で繊細な技を要する場面が比較的少ない仕事に
積極的に立候補をしていくとか
経験や才能の差を補うために道具で補う、
たまご焼き用のフライパンを重々しく掲げ
形もまあ崩れず味と見た目がある程度は約束された出来上がりを期待するのもいい。
そう、私は料理の腕は
経験豊富な名人級とはいかない、
というか
一般人並みと自負できるのは味見の技術に限られるとも言うな。
これまでのところ不便はなかった。
できることは他にもあるし
いざとなれば最近のカップラーメンの進歩もなかなかのものだ。
でもハロウィンとなれば
インスタントに頼り切れるメニューではなく
学生のお小遣いで賄えるほど元気な子供たちの食欲は礼儀正しい範囲にとどまるのか
誰にも確かなことはわからない。
だから今日は私も慣れないエプロンを付けっぱなしというわけだ。
おまけに街にはついに
クリスマスケーキの受付の知らせがちらほらと見受けられるようになり
まもなく訪れる冬を意識しているのか
春風の指導はとても力が入っているように思う。
果たして苦手意識を克服し
困難な任務を成功させるのと
無理なものは無理と知らしめるか
運命の天秤がどちらに傾くのかを知るのは
分けたようで分かれていないボウルの中の黄身と白身だけなのだろうな。