氷柱

『午睡』
すー
むむう
……
むにゃむにゃ
うーん──
も、
もう食べられないわ……
はっ!
なんだか今、
大変な夢を見ていたような気がするけど
起きたら忘れちゃった──
きっとたいした夢じゃなかったのね。
それにしても日の当たるところに寝転がって
ついうとうとしていた記憶はあるけど
なんだか起きたら雲が出てきて
ちょっと肌寒いくらいになっている!
まだまだ油断できない季節の変わり目ね。
こんな様子でお花見に行って
楽しめるのかしら?
着て行く服はお外で過ごすぶん動きやすいものがいいとか
春らしい気分も感じたいとか
相談の声が聞こえてくるの──
そろそろ咲く頃だとしても
明日の夜辺りからの雨で散ってしまわないか?
お弁当に入れ忘れそうになっている
みんなの大好物はないだろうか?
なんて考えても仕方のないことを
世界の運命を左右する大事件みたいな顔で
私の家族たちは悩んでいる。
苦手な子が多かったにんじんも
刻んでごま油で炒めて風味をつけたら
なんとみるみるなくなって──
おなかのなかにとけていくと
世紀の発見を語るような顔で伝え合ったり
まったく我が家には
新しい時代の幕開けを告げる瞬間が多いわね。
世間が大騒ぎしている新元号
今日のところはまだ──
それぞれの間近に見えているお楽しみに押されて
あまり話題にならないようね。
やがて迎えるその時が来たら
歴史が変わる瞬間の厳かな気分とかいうのを
このいつも騒がしくて落ち着かない家でも感じられたりするのかしらね?
どんな漢字が入っているか予想している人もいるみたいだけど
私たちきょうだいも人数が多いから
一人くらいは文字が同じになったりすることもあるのかな。
きっと私の名前はそういうのとは一生かかわりを持たないままでしょう──
それだけは確かね。
春を迎えて暖かな日々の中にいて
ゆっくりと、だけど確かに
物事が変わっていく様子を見つめて──
すぐに馴染んでいけるかどうかは
まだ私たちは知らないけれど
せめてゆっくり変わっていく日々に
みんなで足取りをそろえていけるよう
まだ暖かく過ごせそうでちょっと春らしさを意識した装いなどを
下僕にも教育してあげてもいい気分になっているかもね。