ヒカル

『春間近』
今日も寒い日になった。
暖まった部屋のドアがゆっくり開いて
廊下の寒い空気が吹き込むと
妹たちは一大事のように声を上げ
急いで寄り集まり寒さを防ごうとする。
あれは──
勢いでスカートから足を放り出したり
丸くなっても寒い場所だらけの集合体だから。
たぶん動くのがあったまっていいんだと思うよ。
もう大きな私では弾丸みたいに集まっていくことなんてできないけど。
家の中で走ったらだめって
春風が言うけど
ぜんぜん迫力がないからすぐ言うことを聞かないんだよな……
誰か一人が逃げ遅れてくすぐられるまで
元気な子供たちはああやってぽかぽかになる。
それをこっそり後ろから捕まえて
私たちが暖かさを分けてもらうという
まあ、何度も見た光景だけど
この間までの繰り返しなのに
もう懐かしい気分になる。
私の内側は
こんなに体の中ですっかり春の支度を整えていたのか。
緩みきって
捕まえる前に逃げられることもある!
厳しい寒さも終わったつもりだったから
子供たちが苛酷な寒さとたたかい
鍛えているのはまったく予想しなかった事態だ。
対策を練って一から出直し。
余裕を持っていたのに
次は私が挑戦者になる番だ。
ふー。
のどかな春なんて本当に来るのかな。
テレビでは海晴姉が大慌てで大雪への注意を呼びかけていて
あの焦った顔はむかし──
終わらせたはずの夏休みの宿題が急にかばんから出てきたときみたい。
あれ? これは誰か違う姉妹の記憶かな?
まあ姉妹だから慌てる顔が似ていてもおかしくないな。
廊下では蛍が同じ顔でみんなの冬服を運んでばたばたしているし
聞きなれたその足音が聞こえるたびにみんなの悲鳴は上がるし
ついに足まるだしを見過ごせず強引に上着を着せようとする蛍の襲撃が始まって
のどかな春はまだ遠いようにしか見えない。
こんな時間もあとわずかだと
落ち着いているのは霙姉ただひとり。
誰か──たとえば羽が生えて空から降りて来る子が
上空にある雲の様子を見て
春が来ましたと鐘でも鳴らして教えてくれればいいのに
私たちには寒い日が過ぎたことを知るすべもない。
できるのは──開きそうなつぼみでも探しながら先を予想することくらいかな。
それもこんな雨ではできそうもない。
というか私だってもう春だと決めこんでいたから細かく花の様子なんて見ていない。
もしかしたら見てもわからないかもしれない──
寒い冬の終わりは
手を取り合って教えてもらいながらでなくっちゃ
わからないものだったっけ?
晴れたらすぐ手をつないで春を探しに行かなくてはいけない予定ができるのは
近づく季節がみんなを外に引きずり出そうと罠を張っているみたいだ。
すっきりよく晴れたら話は早いのに。
せっかちですぐ確かめたくなる気持ち。
別に暖かくなったらしたいことがあるかどうかなんて関係なくて
ああ──早くみんなが待っている日が来るって教えて欲しいだけなのにな。