ヒカル

『約束』
ゆうべは夢を見た。
春のように暖かい日の
優しい日差しの下にいる
小さな子供が
その時の私で──
なぜか妹もみんな揃っている記憶はあるのに
寒さを心配することも
鬼を追い払った良い子たちを
追い掛け回して片っ端から褒めることも
すっかり忘れているみたい。
ぼんやり薄曇りの光の中を歩きながら考えていることは
暖かくなって良かったなとか
今までよりも春らしい運動着を見に行きたいとかその程度。
どこに向かっているのかもわからなくて
誰かが近くにいるかそれも知らないで
そのくせ少しも心配はしていないみたいに
子供らしくなんでもできそうな大股でぐんぐん進む。
飛び跳ねたりスキップもしたり
意味もなくその場でぐるぐる回っても
全然大丈夫という根拠のない自信。
ああ、今わかったことがひとつある。
なるほど……そういうことか。
目が覚めて不思議に思うくらい
自信いっぱいで胸を張っていたり
何一つ責任を取れないような約束をしていたのは
大人になってからの大事な経験を全部忘れて
きれいにさっぱり子供の頃に戻っていた気分だったからなのか。
だとすると……
悪いことをしたな。
できもしないことを言ってしまった。
大きくなっても年を重ねても
いつか目を閉じて眠りにつく日が来ても
家族で一番
走るのが速いのは変わらずに私。
腕相撲が強いのも
木登りで一番高く登れるのも
いつかみんなが大きくなって
背丈が並んで──
成長の早いあさひや青空にはいつか身長が追い抜かれることがあっても
それはぜんぜんかまわない。
だけど、そうなってもいつまでも変わらず
この庭を一番に駆け抜けて
飛び出していった道の先頭を譲らない
どこまで行くのか見慣れぬ景色も
怖れずに突っ切っていく子になると──
誰にも負けないからと、その時の私は誓った。
どこまでも元気で──
それは目が覚めてみたら
ずっと無謀なまま変わらないと決めたのを知ること。
なぜだろう?
目が覚めて、行き慣れた道を走っていると
夢に出てきた同じ景色を見ている間だけは
本当に誰よりも遠くまで行けて
誰も見たことのない場所へ最初に走っていける、
そうして見つけた景色の話を
帰ったらみんなに教えてあげるんだって考えが浮かんできた。
もう子供じゃないのにな。
まっすぐ続いている道の先、
高く登っていける大きな樹でもあるような。
見つけたら絶対に逃がさないんだ、
私は一瞬も迷わないんだから
すぐにとんでもないところまで行ってしまうぞって
思っていたよ。
春が近づいているからなのか。
それとも何か新しいことに挑戦する日がまもなく来るというのか。
そういえばもうひとつ
約束したことがあったはずだ。
今までできなかったこと……できなかったけど。
何かが私を急かしている。
まあ、そのうちピンとひらめくだろう。
大事なことはすぐ忘れてしまうような気がしても
ちゃんと思い出すタイプだと──
自信はなくてもそう言えるようになりたいと思っていたんだ。