立夏

『わたしのまち』
乾いた風がごうごう吹き荒れて
首をすくめるときも
もうそれはぜんぜん痛いくらいの冷たさではなく
開いた花びらが舞い散る景色が良く似合いそうな
変わり行く日の予感。
風が運ぶのはまだ砂とほこりでぱっとしないけど
寒いだけでなくなってきたのが
肌で感じられるなら
スカートを短めにしておいた甲斐もあるというもの。
海晴お姉ちゃんはお天気に詳しいから
どこの人より変化に敏感で
触角を動かすみたいに見回して
もうすぐ来る季節の光を見つけている。
そのせいで
あんまり風が吹くのを心配してしまうの。
リカのことを
小さい子供だと思っているかのように
あんまり帰りに寄り道をして
ふらふらしたらいけませんよ。
だってだって
歩くのも
さがすのも
大事なことなのに。
目と耳と
本当はないはずの触角みたいなもので
なぜかこっちのほうにありそうってわかる
新しい景色を見つけようとしているんだもん。
木漏れ日がきれいな大きい幹のそば。
誰かといる帰り道に
ここに案内してみたいと思ったり
氷が真っ白に張っていたのもつい昨日みたいな
浅い池の側を歩くと
かつて暖かい家を知らぬ野生の生き物だった頃は
こういうところで魚をとらえて持ち帰っていたに違いないと
薄い膜がはねるような重い波が立つたびに興奮してくるし
北風が吹く中の用事を何とか乗り切ろうと
コンビニやスーパーにうまく立ち寄る冬の定番コースも
季節がリッカを作り変え、真っ先に探すアイテムも今日は違っている
きのうとちょっと違う
鮮やかな色がつくのはもうすぐの
これは確実な予感。
まだこれから何度も寒い日は戻ってくる予報だけど
期待でうるおってその場でぐるぐるまわりはじめた心。
いつか春が近づいたらと目をつけておいた
良さそうな景色を確認して歩いたら
手をつないでのお散歩は
これからぐっと楽しくなっていくって
目でも耳でも説明もできない感覚で
必ずそうなるのが
すっかり今のうちからわかっちゃった。