スクルージ
ぐすっ……
うう、
蛍は悲しい……
ああっ!?
お兄ちゃん!
あの、その
これは違うんです!
なんだかこういう場面は
ついこのあいだ、どこかで見たような
しかも言い訳の内容はその時と同じで
クリスマスのお楽しみ会の準備というわけで
えへへ──
へんなところばっかり見られてしまいますね!
お兄ちゃんのきょうだいは
ややこしい家族でごめんなさい。
それにしても
泣いている演技って難しいです。
とってもとっても
難しくて
困ってしまいます。
こういうときってコツはあるの?
霙ちゃんはね、
人を泣かせる演技で有名な俳優さんがむかし
レストランで話をしている時に
泣かせるのは芝居であって俳優ではない!
みたいなことを言われて
その場にあったメニューの内容を
ひとつまたひとつと読んでいくと
周りの人も思わず涙したという──
そんな参考になるようなならないようなわけのわからないお話をしていって
まあとにかく、おそらくは励ましてくれたみたいなんだけど
それはもう魔法の領域なので蛍にはどうにもならないという気がします。
べつにそんなことできないんだから
気にするな!
みたいな意味なのでしょうか?
それとも話しているうちに自分でも何が言いたいのかよくわからなくなっていくという
よくある例のあれ?
何て言うんでしょうね。
あれ。
とりあえず難しく考え込むことはできないのはよくわかったので
たまに時間を見つけて練習を続けてみたいと思います。
お兄ちゃんは悲しい演技をするときに
悲しいことを思い出すほう?
蛍は本当に悲しくなってしまうからそういうことはしないなあ……
あ、だから泣いている演技が苦手なのでしょうか?
でも、楽しんでいる演技も苦手ですね……
それにしても
クリスマスを本当に知っている人がいるとしたら
あの人だと評判になるくらいにぎやかなのが上手になるには
過去と現在と
やがて訪れる未来のことを
わざわざぜんぶ見ないとわからないなんて
人間はなかなかめんどうくさいものだと思います。
いや……別に見なくても
それはわかるからいいのかな?
だいたい途中で
これはもしや!
ってなりますよね。
教訓のあるお話って。
もしも蛍とお兄ちゃんが
とてもきょうだいの少ない家に生まれて
パーティーがなくて
ケーキがなくて
楽しむことがあまり得意ではないような気がしていても
でもきっと。
パーティーのかわりにはなるべくおいしいものを食べてお話ができたらそれでいいし
ケーキはごっこをしてそういうふりでも
蛍は得意なほうだし
それなりにクリスマスを楽しんでいるんじゃないかなあ?
と思うのは
いま、お兄ちゃんの顔を見て
クリスマスを待ちながら話しているからで
当日になったらわからないものですので!
練習はしておくんです。
ぐすん、お兄ちゃん
蛍が演技が全然下手でむしろ逆に面白くなってくるくらいの大根役者でも
今年もクリスマスを好きになってくれる?