観月

『あまいもの』
む。
やはり
近づいている。
間違いなく
狙っておる。
この足音は
わらわをつかまえて
ボウルのクリームをかきまぜるお手伝いをさせようとする
含み笑いの
蛍姉じゃの気配。
なにしろみんなが
おいしいものを作れるようになれば
今後困ることはないだろうと
しごくもっともな考え方からの修行をさせるのだが
わらわはどちらかというと
みながくふうしたものをながめて
これはよいものじゃ
こどもがよろこぶのじゃと
ほめるのが得手なほうでな。
誰もが出来るようになっておく必要はないと考えた。
兄じゃには食べてほしくて
キッチンから追い出そうとする蛍姉じゃ。
近づいたら
ひとつおまけに口に含ませて
追い返す技を心得たようじゃ。
兄じゃを太らせて食べようとするのでないとすれば
あれはきっと
おいしいとほめてもらいたくて
どうにもとまらなくて
足元を軽快に動かして胸が弾むのをどうにか抑えつつ
なんだかもう
むずむずしてしようがないのではないか。
わらわはそう見ておる。
兄じゃの横で
いっしょにほくほく顔をしながら
おいしいのう
兄じゃ!
ほめるのは今じゃ!
といったかんじで
お助けする役目の子が
一人くらいいるのも便利ではなかろうか?
なに?
わらわのほかにもつとまる子がいそうなおしごとだと?
ふふ──
でも、ちゃっかり兄じゃの横でなにげない顔でほくほくしているのは
むじゃきで隠し事もなくて
身軽なこどもでなくてはできぬでな。
後のことを考えると
兄じゃとわらわしかいないなら
困る場合もあるかもしれぬ。
もちろん、何も考えていないわけではない。
もしもそうなったら
その時は
その時!
という
人が人でいる限り
古くから変わらぬ手段をとるぞ。
甘いケーキがなくなることを先に考えていたら
いちばん喜ぶ顔を見せることができぬであろう?
兄じゃがつられるいいお顔をするのは
そう簡単なことではなく
日々の積み重ね。
どうにかして
たのしいクリスマスの前の大騒動の準備からも逃げきれたら
当日は誰よりはしゃいでしまうのはわかっているが
それまでが遠いと知り、たどる未来は誰にも見えぬことばかり。
さて、糸を巻いて紡がれる定めはわらわの行く先でどちらに転ぶかな。