蛍

『よろこび』
はっぴーらっきーはねむーん！
……蛍です。
実は──
わがやの誇る愛らしいマホウ使い──の卵の夕凪ちゃんは
今日の日記を書くのを楽しみにしていて
楽しみで楽しみで
持ち歩きすぎてたぶんお風呂辺りの湿気で
表紙がふやけているほどなのに
興奮しすぎたのか日記を枕に眠り込んでしまったの。
大事に両手で抱え込んでいた日記が
運ばれていくときにころころ転がって
ねずみの穴の中へ。
というのはうそだけど
今、蛍の手の中にあるのは
夕凪ちゃんがしっかり守っていたその日記帳。
実は、蛍は責任を感じています……
きのうはお兄ちゃんのおかげで
一年で一番楽しいと言ったら他の日も次々と名乗りを上げるけれど
それでも感覚なら
一年で一番だと言いたかった、
もう蛍の地味な一生で一番でも良かったくらいの
なんだかうれしかった日。
……あっというまに過ぎていった幸せが
そろそろ眠る時間が近いとあくびをはじめた頃に
気がついた視聴動画のアップロードで──
そのままライブも見たいねってなって
蛍と夕凪ちゃんは
夜更かしをしてしまったの。
一足早く夢の世界で冒険を始めた夕凪ちゃんの代わりに書いてみたら
怒られるかしら……
でも、日記を書きたい夕凪ちゃんの気持ちが
夢の国から魔力を発信して
蛍の指を動かしているのだとしたら
さすが夕凪ちゃん、マホウ使い！
の、卵！
なんて言ったら
そんなマホウは使っていないとかわいくすねるでしょうか。
もう大きくなった蛍がこんなに
子供こそが秘密を紡ぎそうなマホウのことばっかり考えているなんて
世の中は何が起こるかわからないもので
本当に術の一つや二つは素直に恋をしたり
踊りを真似たりコスプレごっこをしてみるだけで編み出せそうになるよ。
夕凪ちゃんが何を伝えたいかまだ受信していないので
思いのままに好きなことを書きます。
お兄ちゃん、昨日はどうもありがとうございました。
みんなにバレンタインのお返しのプレゼントを
とっても大変だったでしょう？
私たちの家はとても女の子が多いし……
えっ、言わなくてもわかる！？
なーんてとぼけてみたり。
おほん。
お兄ちゃんもよく知っているとおり
私の家族は性格も考え方もいろいろで
にぎやかなのが好きで踊るのが好きな子も、引っ込み思案な子もいるし
ホワイトデーが待ちきれなくてうきうきする姿も
むすっとして落ち着かない様子の表情も
明かりの下に、木陰の暗がりに、うろうろ歩くときだって
どこでもその気になれば収穫できる感じの豊作で
その日はいったいどうなってしまうのかーと
蛍もまた楽しみのような怖いような
逃げてしまいそうな自信のなさもありました。
それが、そのいろいろひっくるめた蛍の全部が
お兄ちゃんの側にいられたら
たちまちぱーっと
新しい広がる気持ちで塗り替えられていく。
みんなもそうなんだって
人の心をマホウで読んだりできない蛍だって
気がつくようになる。
お兄ちゃんがいてくれてどれだけうれしいか
でも、自分でも経験するたびにおどろく
こんなに大きい謎のような気持ちだから
どうやっても
お兄ちゃんにはたぶんわかってもらうことはできないかもっていうことが
ちょっとだけ悲しい。
それくらいに私は
お兄ちゃんに特別な気持ちを
ずっと毎日、
できればたぶんこれからも
もらえているのかな、と
そう思います。
お兄ちゃん、いつも私たちといてくれてありがとう。
もしも蛍が何かのきっかけで
人を幸せにするマホウが使えるようになったら
全部お兄ちゃんのおかげだって、
本当は大好きな家族みんなのおかげだとわかっていても
でも、お兄ちゃんがいたからだって。
そう思ってくれていいからね。
今日も虹子ちゃんと青空ちゃんは
仲良く遊んでいたと思ったら
けんかして泣き出したり、すぐ仲直りをしたりしています。
今はもう悲しいことがあったなんて忘れているかもしれないけど
蛍は、いつでもかわいいみんなのところへ走っていって
いっぱいうれしい気持ちにさせるマホウが使えたらと願っている。
だから、このあと夜も更けて
まだまだ肌寒いお部屋の中でお布団をちゃんとかけているか
見て回るときに
楽しい夢が星空から降りてくるマホウに
蛍が成功したのなら
それはお兄ちゃんのおかげだと思います。