氷柱

『冬来たりなば』
いよいよ今年いちばんの寒さがやって来て
完全に冬も本番。
この厳しい時期を乗り越えたら
あとは春に向かってどんどん暖かくなるばかり。
すっかり先が見えて安心。
これからの未来は明るいわね!
……
なんてこと
今現在、真っ只中のこの寒さを体験している途中では
とてもそんな余裕のある考えなんてできるはずがなく
このままいつまでたっても冬が明けないんじゃないか、
やがて春が来るにしてもずっとずっともう信じられないくらいそれは遠い日で
果たして本当に元気なままで私たちは暖かい日を迎えられるんだろうか?
凍えているうちに
かちんかちんに固まったまま
春が来たことを知らずに何年も氷の柱として
すくすく育っていく子孫たちを見つめながら立ち尽くすんだわ……
立夏なんてなんだかんだでちゃっかり要領よく冬場をしのいでいきそうだし
石像になった私が見守るのはあの生意気で脳天気でひたすら明るさだけがとりえの子と
その血を強く受け継ぐ代々の子孫なのかと思うと
氷になろうがなんだろうが頭が痛い景色になるに決まっているわ。
ああ困った困った。
これからあのおばかとまぬけな下僕たちが私の助けなしで
厳しい時代の荒波を生き抜いていけるのだろうか?
でもまあそんな子たちだと
雪の日に寒そうだからってお地蔵様や家にある氷の像に
笠をかぶせるくらいのことはしそうだし
そうなったら動けなくなった私も米俵を届けられるから
結局はありがたい家族がいてよかったねという話で
現状とそんなに変わらないわけだから
今のうちから下僕はもっと私に感謝してもいいんじゃないかしら?
いつもいつもずぼらでだらしないのをいやいや助けてあげているんだから
笠は別にいらないけど……
毎日ささやかでもいいから贈り物があったって罰は当たらない。
むしろ、考えてみたら
お礼も何もないほうが天罰を受けそうな気もしてくるわね。
私があきらめもせず粉骨砕身
何事も規律正しくまじめに導いてあげているおかげで
家族のみんなも日々を平穏に過ごせているというのに
普段は顔を見たら
こわい!
怒られそう!
なんて逃げていく妹たちが
それは怒られそうないたずらばっかりしているからでしょう! と叱るまもなく
こんな寒い日に限っては
あったかいからって近くに寄ってきて膝の上に座り込んで
何を言ってもはいはいって聞き流すばかりで
安心したような顔ですっかりその場から動かなくなるのは
あれは、おしりに根が生えてしまうというやつね。
よりによって人の上でわざわざそんなめんどくさい根を張らなくてもいいのに、
みたいなね。
まあ寒いときには考え方が落ち込みがちだから
わけのわからない行動で撹乱されているほうがまだ退屈しなくてマシかもしれないわ。
どうせ差憂さが厳しい冬場が去るまで、暖かくして待つ以外にできることなんかないものね。
必要ない事態で行動力のある妹たちがいれば
こたつでだらけているあいだに一日が過ぎてしまうという恐ろしい現象は
なんとか逃れることができる。
私だけでもしっかりしなくては、から
どうせなら下僕も引きずりこんで巻き込もう、になって
手がかかる子守りを押し付けて
めでたしめでたし、
と安心したあとに
なぜかわざわざまた私の膝の上を狙ってくる謎は
わりと毎年あること。
信じられないくらい寒くたって冬の暮らしは意外なほど変わりなく
慕われる人はいつも忙しい。
そんなふうにして
今年もそのうちみんなで春が迎えられたらいいわね。
誰が先にほころびかけた花びらを見つけるかの競争があって
みんなでいっせいに冬の終わりを実感するとは限らないけど。
寒がりがベタベタくっついてくるのがこの時期だってわかるから
そのうちもうちょっとすっきり気楽な時間を持てるようになって
寂しくもなく考え方が前向きに、
明日が来るのを待つようになったら春の予感。
雪が溶けるより
天気予報の予想気温より確かな毎年のできごとが
日々の煩雑な営みにすっと自然に滑り込んでくる
いつか訪れる日のこと。
今はまだ夢のような想像図でしかないわ。
あーあ、寒い寒い。
これは誰かをカイロにしていなければとてもやっていられないかもね。
もうしばらくは、しかたないかな。