『もしも』
すさまじい寒さも峠を越えて
明日からは気温が落ち着くらしい。
あったかくなるかも……という話もある。
数日前、強烈な寒波がやって来ると聞いて
ホタ姉様がこれは大変と張り切ったために
一週間まるごとお鍋週間を宣言して
きのうは味噌ちゃんこ鍋、
今日はカレー鍋で
体の中からほっかほか。
汗をかいて額から湯気が出るくらいの効果だった。
ああ、湯気は物の例え。
ただの気分で言ってみただけ。
人間は蒸気で動いてはいないものね。
そういうわけで好評ではじまった鍋ウィークが
明日はちょっと……
ぬくもりが充分で
全部平らげられずに
ついにお残ししてしまう子も出るかも?
今からそんな心配をしても仕方ないんだけどね。
ホタ姉様の腕を信じて
私たちには祈ることしかできない。
なにしろ鍋のスタンダード寄せ鍋、
寒さに対抗できる見た目も口の中からも炎が出るようなチゲ鍋や
さらに鍋料理界では歓迎のパレードで迎えられる華のプリンス、すき焼き鍋が
まだ候補に待ち構えている。
鍋の本気を見るのはまだまだこれから。
20人きょうだいの食卓は熱い情熱が滾り
夜ごと空っぽになる胃袋に満足とボリューム感の明かりを灯す
冬ならではのレパートリー。
せっかくこの時期のおいしいものなのに
あったかくなったら
どうなるのかしら?
せめて私は──
今週だけはホタ姉様の情熱を受け止めて
ふだん小食なほうでも、可能な限り大盛りでいただけたらと願うの。
もちろん残したりしない──
お皿の底まで、あったかいおつゆをすするの。
おだしと具の味が染みたおつゆ。
どんな味付けで、色合いが様々でも常に変わらず美しい黄金のおつゆ。
……まあ、たいていの状況ではおいしいおつゆ。
最後まで食べ切れたらな。
風邪を引かないように。
寒さが続く日々もかなりきついのは確かだとして
あんまり気温差がある場合も気をつけないと体の調子を崩しやすい。
そこまで急にぽかんと春の陽気になるかどうかはまだわからない。
だけどできれば
毎日を変わらず何事もなく過ごしていけたら。
人間はそう簡単には力強い列車のように止まらずに走っていけるようにならない。
いつも元気でいる、
それはとても難しいこと。
小雨ちゃんはね。
優しくなろうとして
失敗して落ち込んで
優しくなれないことが悲しいみたいで
お手伝いも一歩引いたところから
お鍋のときだって脇に座ってみんなを見ている。
実は地道な作業ばかり大事なところで活躍しているって、知っている人は知っているのにね。
冬場の寒さの中でも誰かを支えたくて
優しくなりたいと願う人は
本人がうまくいかないって思い込んでいようと関係なく
強く願ったときからもう、優しい人に変わりはじめている。
絶対に間違いない。
私が言うんだから間違いない。
近くでいつも見ているし
同じように見ている人だって、暖かく見守ってくれている人がいるもの。
そうでしょう?
家族のことはよくわかる……
わかるときもあるわ。
私だって。
だからきっと
鉄道網を巡るあのたくましい列車のようになりたいと願ったその瞬間にはきっと──
いや、まあいいや。
そんなに何事もうまく運ぶわけではないから
わずかな希望くらいにしておくわ。
もしかしたら、あるかもね。
願いが届くことだって。
別になるべくお鍋の時は寒かったらなと願っているわけじゃなくて
おいしくいただけたらと願っているだけ。
家族を信じて、寄り道もしないで買い食いの誘惑にも負けずに
きちんとご飯を食べられるようにおなかをすかして夕飯の席につくというだけ。
普通のことだけど、なかなかできないことでしょう?
だから私だけでもチャレンジを続けていきたいというだけです。
そんなつまらない話でした。
はい、おしまい。
他は特に何も伝えることはなし。
たいがい何かしら起こるややこしい騒動の話は他のみんなから聞いて。
今日は私の周りは平和で助かるわ。