『崩壊』
この地球という星、
今生きているこの時代には
日本と呼ばれる国に住む人間である私たちのところへ
長く厳しい冬が過ぎたあとには
必ず一面に見渡す限りの花が咲く春が来る。
最近は氷河期が到来した頃でもないわけで、たぶん来る。
いくつものはじまり、多くの別れが
吹きすさび通り過ぎる風のように激しく、あるいはのどかな日差しのもと穏やかに
耳元を撫で、まつげを揺らして通り過ぎていくと
やがてその先には
また訪れる愛しく危なげにも見える季節の揺らめきの後で
きっとまた誰もが力を合わせて乗り越える冬が来るのだから
いつも消え行く何かを思い、慈しむようにしているといい。
嘆くこともなく
憂いもなく
ただ変わり行くことを受け入れて
静かに見つめているだけでかまわない。
全ての終わりとはじまりは誰に求めることのできないサイクルで
四つの季節がくるくると車輪のごとくに回るものだから
ちょっと暖かくなって
このままだと春どころか汗だくで過ごす夏もまもなくだな、などと冗談を言っていると
冷たい雨、やがて変わる白い雪、また本格的な冬みたいな寒さが押し寄せたとしても
それは良くある輪転のひとつで
わかっているのだから寒さなど
ささささ、
寒さなんて
今まで何度も乗り越えてきた寒さは
寒くて寒くて
やっぱり困るな!
なんということだろう。
世の中、一年中春みたいな陽気でもいいのに。
三寒四温が冬を見送る儀式のような話もあるけれど
とつぜん春が来ていったい何が起こったのか、
と少し刺激的なくらいが
私には合っているんじゃないかな。
春が楽しみすぎて、ちょっと暖かくなったらいそいそと冬物をしまうという小動物みたいな生き方は
私はあまり縁がないからそれはいいのだけれど
でも、いくら準備をしていても
寒い時期ならではの楽しみがたくさんあるにしたって
冬より春がいいじゃないか。
そうだろう?
だって何もしていないのに爪先まで凍えたりするなんてことはないんだから。
ううーっ
明日はさらに冷え込むという。
変化は世の常。
人は当然のこととして受け入れるのみ。
だが
春のほうがいい!
と、声を上げて主張する権利。
人として生まれた私の言葉は誰にも奪えないはずだ。
まだ三月なんだから、ときどき寒いのはどうにもならないことだけど
それは私たちの王子様にも何もできないことなのだろうか?
まあできないな。
こればっかりはどんな王様もかなわない。
吹雪が何か真剣に研究をしていたようだけど
生身で寒さを吹き飛ばす発明はついに今年の冬は完成しなかったみたいだ。
ふう、仕方ないから
寒いときは過ぎるのを待つほかに
できることはないと思えばいい。
うん、それはいい。
しかも明日の寒さを乗り越えれば
今度は急に春の陽気になるようだから。
海晴姉のお天気予報が伝える
この希望のある未来はぜひ信用したい。
番組だけでなくて、生で目の前でも言ってくれるし。
もうすぐ暖かくなるから
こたつをしまうスペースを押入れに用意し、
みんなで張り切って春を迎えよう、と。
うーん、どうも希望を持とうとしてもうまくいかないな。
せっかく寒いならもう少し寒さを言い訳にできてもいいのに。
あんまんだって体がまだ欲しているような……
しかし桜餅なども準備をしていい時期であり……
全ての思いつきの計画は
ふらふら頼りなく揺れて、迷いがもたらす胸の嵐にあえなく屈服してしまうもの。
それでも明日の予定は今から決まったようなものか……
ああ、寒い日というのも困ったな。
家の中でゆっくり過ごす以外にできることが何もないのだから。
せめてこの無為を少しでも心豊かにいられるよう努力するのが
自然の厳しさに対する我々儚い人間の小さな抵抗なのだろう。
これはせいいっぱいがんばって
心地よくゴロゴロしなくては
人として申し訳ないような気が
だんだんしてこないだろうか?
あんまん……
おでん……
これが最後ではない、繰り返す定めの果てにまた出会う。
別れを惜しむつもりなどない。
私たちに与えられた冬にできることをしたい。
常に変転する運命に翻弄されようとも
強い意志でそれだけを願う。
おいしいあんまんを。
いい味のおだしのしみたはんぺんを。
そして、いつも共に過ごす家族と、喜びを分け合えることを。