小雨

『まぶしくて』
今日はとってもぽかぽかで
ほんとににっこりぴかぴかで
あたたかくてうれしいから
小雨はもう
お庭でかわいいみんなが楽しそうに歌って
手をつないでくるくる回っているだけで
ああよかった
晴れて暖かくなったおかげでこんなにいいことがあるんだなと
もうこれ以上は何も。
ひとつも欲しいものがなくて、小雨はこれで充分。
にこにこしながら見ているお庭を思い出して
もうずっとこれからうれしくなる
この日のために生まれたから
それだけでいつまでも幸せでいられるんだろうと
そんなことを考えました。
いつか悲しいことがあっても、もういいんだと。
くしゃくしゃになって泣いているのが当たり前の毎日に戻っていっても
二度とつらいとは思わない。
今日が晴れただけで──
と、まぶしくて目を細めて見つめながら。
わかっています。
実際はやっぱり泣いてしまったら悲しいし
今日晴れたくらいでこれからずっといつまでも幸せでいるわけはない。
やっぱり小雨は泣き顔と一緒に
小さな胸の奥の小さなろうそくみたいな毎日ぎりぎりのハートをぷるぷる揺らして
みんなに心配をかけながら
いっぱい落ち込んでばかりいながら生きていくんだろうなって
暗い想像をしているんです。
わるい小雨!
当たり前に前向きになることが全然できないちびの小雨……
それでも、どんな泣き虫の女の子だって
お出かけ日和の暖かい日はうれしいもので
お庭からかわいい歌声がいっぱい聞こえてきたら
ときどきものすごいびっくりする人間離れした大声が混じっていたってかまわない。
元気でいるよ。
よかった。
今日も晴れてみんながうれしそうだな。
だったら他には何もいらないな。
気の迷い?
それとも、情けない自分をごまかしているのかもしれない。
無理をして明るくなりたいだけだったりしても
でもその時だけは本当に
幸せで、うれしくて
あたたかくて
ほっぺたがバターみたいにとろとろ。
とけてしまいそう。
こんな小雨でも、さんさん明るい日だけは百点満点の気持ちになっていいの。
あまりにうれしすぎると
ついこのまま、怖がりなのにうっかりお出かけをしてしまわない?
目的もなく
行き先も何も決めずに
大胆な船出をして
調子に乗ったら
あんまりあたたかいせいでとけてしまって
もう戻れない。
そんなことになりそうで
誘われるような陽気も
ちょっとこわい……
きっとまだ子供のままの小雨が歩き出したら
お外でぽかぽかしすぎて動けなくなってしまったときに帰れない。
お兄ちゃんと、みんなのいるおうちがとても遠い
無謀な遠出を考えなしにはじめてしまったら
どこかで聞きなれたちびちゃんたちの幸せな声がしていたって
いつも弱いままだから、たどりつけない。
もうどこにも向かうことができない……
赤ちゃんみたいに頼りない
だけど元気は全然ない
つまらない小雨。
縁側でみんなを見ている以上のことを
はじめてしまいたくなったらどうなるの?
こわいです!
冬の寒い毎日に、ぽつんと晴れた誘惑の日。
それとも、当てもなく歩いてみようなんて無茶を言い出して
勇気を出して実行するようになった小雨は
もう胸の中の小さな灯火は、おもちゃみたいなろうそくじゃなくて
けっこうめらめらたくましく燃えあがっている
立派な
もう大人の
そんな夢のような……
優しい日なたでうとうと。
だから夢を見てしまったのでしょうか?
ちょっと勇気を出せるようになった、成長した後の小雨が
もうちゃんと一人でおうちに帰って来れるなんて
だったらいいな。
夢を見れただけでうれしい──
はじめてのおつかいでも、おとどけものでもなく
怖がらないで歩いているの。
旅から無事に帰ったら
きっとお兄ちゃんは喜んで
小雨のことをお帰りって迎えてくれる。
自慢の妹なんだと
そう言って。
遠い先に、
ずっと長い時間が通り過ぎた後に
あるかないかもはっきりしない出来事を
まるで本当みたいに
のどかな日差しの中で見ていました。
いつまでも変わらず、小雨はここで臆病に震えているはずなのにね?
どうしてだろう?
楽しい夢を見せる謎の妖精みたいなものが
ぽかぽか陽気につられて通り過ぎただけなのかもしれないですね。
たぶん、そんな気がします。