氷柱

『寒がり』
はあ……
うっとおしい寒さね。
こんな時。
うんざりもなにもかも吹き飛ばす解決策と言ったら
愛の力で何もかも捨てて飛んで行って
南の島へたどりつき
大好きなお兄ちゃんと一緒にいつまでも暮らしましたとさ、ということでは
もちろんなくて
乾燥した外から帰ったらうがい手洗いの徹底、
好き嫌いなく栄養バランスを考えた食事をしっかりとって
無理をしない規則正しい生活で
健康な体を保つこと。
これくらいね。
師走の忙しくなってきた時期。
何をするにも、日頃から当たり前の生活を続けて
平凡に積み上げていく
健康が何よりの味方だわ。
ふつうに過ごすことが一番大事。
だけど、それは意外と難しい。
寒さのせいで立夏までなんだか元気がなく……
まあ、いきなり人の背後から覆いかぶさって
暖かさをかすめ取ろうとする妖怪みたいな元気はあるんだけど
そんなつまらない遊びばっかりしているから
いざ本格的な冬の寒さに太刀打ちできないで
やる気スイッチが入らないとかそんなつぶやきしかできないのよ。
若さで立ち向かうのも限界があるといういい例だわ。
大事なのは自己管理。
徹底してバランスを考え、実行に移すコントロール
頭が良かろうが悪かろうが
唯一の資本である自分の体を
いたわるときはいたわって
無理をするときは、誰だって必要以上に無理をしがちだから
きもちだけでも抑えるようには念頭に置いたりしつつ。
厳しくつらい冬を乗り越えないと
春も来ないものね。
めんどくさくっても
うざったくても
あーあ……
でもなんでこんなに寒いのかしら。
下僕はどう?
すぐテンションが上がって調子に乗って薄着で出かけて
くしゃみをしながら家に帰ってきてわけのわからない菌を持ち込んだりなんて
してないでしょうね?
寒い時期だから、気になるのよね。
忙しいを言い訳にして
変なことで体を壊さないか
バカだから。
誰もが認めるバカだから。
ただガサツでニブい男という人種に属するだけでそんな扱いでいいと思うんだけど
だからといって、家族である以上は放っておけないから。
年末に向けて試験の時期でもあるからなのか
気がついたら、たまに辛気臭い顔をしてるし。
バカなくせに一人前にも、まったく。
師走とはよく言ったもので
誰でもなんとなく忙しくなりがちな時期だから
あなたがそんなつまらなそうな顔をしていたらみんなもがっかりするかもしれないし
死神の取り付いたような青い顔をそこらじゅうに振りまかれたら
こっちとしては元気が出るものも出なくなるに決まってる。
そういえば──
街ではくだらないクリスマスイルミネーションなんてものが
ちょっと前からはじまっているみたいで
どうでもいいことに血道をあげているのも見たくない
つまらないなあ──
って、それはたまたま一人で通りがかった
わりとイルミネーションで有名な通りなんだけど
そうよ、たまたまね。
何の目的もなく。
ただ通り道だっただけ。
期待もせずに歩いていたら
まあね。
有名だっていうくらいのことはあるかもしれなくて
ほんのちょっとは気晴らしにもなったわ。
寒くて縮こまって
何かが許せなくて腹が経っていたとしたって
まあ、たまには。
こんなイルミネーションも見れるなら
凍える寒い冬だって
そう悪いことばかりじゃないかな……
少しだけ。
そう思える景色。
でも何が気に入らないって、なんだか雰囲気がお一人様お断りみたいになっている
周りの人並みだわ。
どいつもこいつも軽薄なニタニタ笑いで
ばっかじゃないの。
こんな大切な景色をもうちょっと真剣に感じられないのかって。
……
もし。
仮の話として。
うちの情けない下僕が
師走の雰囲気でなんだかあわただしい気がしてきて
ついつられて忙しいふりをして
そんなつまらないことで、ちょっとめんどくさくなったら。
あなたなら、何も感じていないような顔で笑い飛ばしたりしないで
きっと喜んでもらえる街並みだと思うから。
ついてきたかったら、勝手についてきたらいいわ。
なるべくうるさいのもお断りだから、他の子には秘密にしてくれるなら。
騒々しいちびすけたちのことは嫌いじゃないけれど
私だってたまにはそんな時くらいある。
ちょっとつらくて、落ち込みそうでも
寒さが染みる日だって
きっと喜んでくれる人と二人なら
案内してもいい秘密の場所。
そのありかを明かす時が
どこか幻想的な12月、もうすぐ訪れるクリスマスまでには
ちょっと気まぐれで
ふとした拍子に
まあいいか、くらいの気持ちで許して
連れて行ってあげて
いくら寒い冬だからってあんまりつまらなそうな顔をするのはあなたらしくないって
言ったらどうなるだろうって
たまに。
ふんっ!
たまには遊びに行く自由さも、立派な自己管理の一つ。
それだけのことだから
決して羽目を外しすぎないようにね。